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2009年7月21日 (火)

1Q84の月たち

改めて言及するまでもなく、大ベストセラーである。

   

「月が2つになる話」として知られている場合が多いと思うが、それ以外にも月に関して興味深い内容があった。これから読もう、と言う人も居るだろうから、ネタバレにならない程度に紹介する。(もしかすると既出かもしれないが)

余談ではあるが、村上春樹作品を読むのは初めてだ。さらに、いわゆる「文芸作品」を読むのは30数年ぶりである。きっかけはその題名で、現実世界の1984年が、私にとって決定的に重要な年だったからに他ならない。

余談はさておき、その興味深い箇所を引用する;

……口元には明け方の三日月のような笑みが浮かんでいた。

もう一つ;

まだ夕暮れには間があったが、そこには月がぽっかりと浮かんでいた。四分の三の大きさの月だ。

多くの人、特に村上春樹ファンには興醒めだろうが、どう興味深いのか科学的に説明してみたい。

下の図は、月の軌道面の北側真上から見下ろしたもので、月の満ち欠けとそれが地球から見える時間帯の関係を表している。(クリックで拡大)

Moon_2

  • 水色の放射状の線分が交差している中心が地球で、左が太陽の方向
  • 線分の末端、それぞれの先の数字は、その位置に月が来たときに南中する時刻を示している -- 地軸の傾きを無視して単純化すると、南中時刻±6時間は(晴天なら)月が見える
  • 水色点線の円は月の軌道で、地球からはその内側に入っている白い部分が輝いて見える(より正確には、その位置で月の軌道円に対する接線よりも地球側)

なお時刻は各地の天文的な時刻なので、作品の舞台となった東京~市川近辺では、現象の発生が時計の時刻よりも20分弱早くなる。(日本の時計は兵庫県明石市を通る東経135度線上の天文時刻に合わされている)

まず一番目の「三日月」は、14:20頃に南中し、地球から見えているのはおよそ08:20~20:20の間なので、「明け方」には天空に存在しない。
作中の「三日月」が三日月形をした月の意だとすれば、それは二十六夜の月になるが、村上春樹はその違いを承知した上で敢えて「三日月」と書いた可能性が高い。

二番目の「四分の三の大きさの月」が出てくる場面は、教室の掃除が終わった小学校の放課後、季節は12月の初め頃なので、15~16時の事と考えるのが自然だろう。
満月よりも前の3/4の大きさの月(1)は21時に南中し15:00~03:00の間見えるはずだ。なので時間的にはぎりぎり辻褄が合う。
しかし、仰角が大きくても20度程度と考えられるため「浮かんでいた」と言う表現には違和感を覚える。
満月を過ぎた3/4の大きさの月(2)が見えているのは21:00~09:00なので、これは全く可能性がない。

いずれにせよ村上春樹は、これら「月」をその他諸々の「不自然」な事の象徴として書いたのだと思う。かなり重要な場面に登場する「It's only a paper moon」の歌詞をご存知なら賛同していただけると思うし、作中に「そう、話のポイントは月にあるのではない。彼自身にあるのだ。」と明記されているのだから。(ネタバレになるので、どんな場面に書かれているかなど、これ以上触れない)

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コメント

仰角が大きくても20度程度と考えられるため「浮かんでいた」と言う表現には違和感を覚えるということ、私もそう思って読んでいました。
同じ意見の人を探していました。
ありがとうございました。

投稿: えり | 2015年5月21日 (木) 12時05分

えり さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
「違和感を感じさせたい」と言う村上サンの狙いにまんまとハマった、と言うのは考え過ぎかもしれませんね・・・(汗

投稿: エンジニア | 2015年5月21日 (木) 13時25分

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