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2010年2月22日 (月)

シマリスと暮らす(2)シマリス♀は春に囀る

前回のシマリスネタで紹介したこちらの本;

の147ページ左下、「性周期と発情期間」の節に、

・・・メスは、約14日周期で発情し、繁殖シーズン(引用注:飼育下で12~5月)中に何回か(2、3階の個体もいますし、10回以上の個体もいます)の発情を迎えます。1回の発情日は1~3日です。発情中のメスは、頬をふくらませて、「ホロホロ」というような鳴き声をあげ、・・・

と書いてある。確かにそのように聞こえないことは無いが、「鳴き声をあげ」は少し控えめな表現だと思う。ずいぶんとにぎやかなのだ。

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「ホロホロ」って、どんな鳴き声?

鳥の鳴き声などを文字で表現するのを「聞き做し(ききなし)」と言うが、聞く人により色々なバリエーションができる場合がある。たとえば、鳥の「ホトトギス」の鳴き声の聞き做しは、そのまんま「ホトトギス」が一般的だと思うが、他に「テッペンカケタカ」や「トキョキョカキョク(特許許可局)」の様なバリエーションがある。

「『テッペンカケタカ』と鳴く鳥」と教えられて、はたして鳴き声でホトトギスを探せるだろうか。シマリス♀の「ホロホロ」も、同じくらい微妙な聞き做しである。

しかし最近は便利になったもので、実際の鳴き声を聞いてもらえる。

発情したシマリス♀の鳴き声

さて、なんと聞こえただろうか。私には「ピヨ、ピヨ」のように聞こえるのだが、家族の中にはカエルの鳴き声のようだと言う者もいたりする。

私が飼っているシマリスの場合、鳴くのは1年に3回程度、1回あたりの期間は1日強である。シマリスが寝る前に、小さな声で「ピヨ」と鳴いたかなと思った翌日は丸1日、昼間ずーっと、家中に響き渡る音量で鳴き続けるのだ。一日が終わるころには、大抵声がかれてしまっている。


「ホロホロ」だけじゃぁない!

実は、同じ時期にもう1種類、別の鳴き声が混ざる。

別の鳴き声

こちらの方は、私には「チッ!チッ!」と聞こえるが、下の本には、そのさらに下に引用した記述がある。

・・・私は、木のこずえで、シッシッシッと鳴いている雌のシマリスを見つけた。繁殖期に特有の鳴き声だった。(93ページ)

私が起きたときには、屋根のシャチホコの上で(私の実家は、山の麓にある大きな家で、屋根の両端にはシャチホコをかたどった瓦が置いてあった)、トロ(引用注:著者の飼っていたシマリス♂の名前)が、シッ!シッ!シッ!シッ!と鳴いていた。(101ページ)

「チ」と「シ」は、聞いた人が感じた音程次第で容易に入れ替わると考えられるので、多分同じ種類の鳴き声ではないかと思う。

便宜上こちらの鳴き声を、以降「チッ!チッ!」と呼び、先に紹介した鳴き声を「ホロホロ」と呼ぶことにする。

なお上記に加え、同じ著者の以下2冊の本も、動物好きな人に是非薦めたい。とても楽しめる内容だ。


以上の情報から、以下の事実があるのだと考えられる。

  • シマリス♀は、繁殖期(の恐らく受胎可能な期間)に「ホロホロ」および「チッ!チッ!」と聞こえるように鳴く。
  • シマリス♂は、繁殖期に(もしかしたらそれ以外でも)「チッ!チッ!」と聞こえるように鳴く。


ちっとも囀っていない?

これだけでは、私が「囀る」としたのが意味不明だろう。少し長いが、以下の録音を聞いていただけば、「囀る」のを納得してもらえるのではないだろうか。

「チッ!チッ!」のバリエーション

「ホロホロ」と「チッ!チッ!」のクロスオーバー


なぜ囀るのか?

私の飼っているシマリスは、今まで説明してきた場合を除くとほとんど鳴かない。時々ため息のように「プスッ」と鼻を鳴らしたり、ケージの扉に指を挟まれそうになったりすると「ジージー」または「グェーグェー」と聞こえる抗議の声を上げたり、無理やり寝床から出そうとすると尻尾の毛を逆立てて「クプクプ」と威嚇したりするが、どれも「ホロホロ」や「チッ!チッ!」に比べれば1/10以下の音量でしかないし、一日中やっているわけでもない。

これは門外漢の推測だが、捕食者に見つけられてしまうリスクを犯してでも、繁殖可能な時期だけ仲間に居場所をアピールする方が、生存・繁殖に有利なのだろう。従って、そういった形質を持つシマリスが進化した、と言うわけだ。


シマリスをリバースエンジニアリング?

さて、このままではエンジニア的ではないので、鳴き声の音量(エンベロープ:包絡線)とスペクトラムの時間変化を調べてみた。全てのグラフについて横軸は0.6秒間分を表示している。また、最大振幅がどちらも約50%になるよう調整しているが、無調整だと「ホロホロ」の最大振幅は「チッ!チッ!」の1/4程度である。

Fig1_2

「ホロホロ」は一旦最大振幅まで立ち上がり、すぐに1/4程度まで減衰するが、その振幅がしばらく続いた後、徐々に減衰している。「チッ!チッ!」は、最大振幅まで2段階で立ち上がり、同じように1/10程度の振幅まで減衰した後、割合と早く減衰している。耳で聞くと、「チッ!チッ!」のほうが断然アタックが鋭く感じるが、これは次に触れるスペクトラムの違いに加え、音量が振幅で4倍ほど大きいことが原因だと考えられる。ただし「チッ!チッ!」が最大振幅前後で2段階に立ち上がり・減衰しているのは、声帯や気道の構造が影響しているのだろうと考えられるが、確かなことは何もわからない。

Fig2

スペクトラムを見ると、さらに違いがはっきりする。「ホロホロ」は1~2kHzの基本波が主体で、倍音は少ない。包絡線比較ではほとんど音が止まってしまったように見えた発声から約0.2秒後に基本波の周波数が若干低下していて、耳でも途中からピッチが下がって聞こえることと合致する。「チッ!チッ!」は、5~9kHzの基本波とその倍音の2グループに明確に分かれていて、また持続時間が「ホロホロ」の1/2程度である。

「ホロホロ」では頬を膨らませるが、「チッ!チッ!」ではそれが無い。また頬を膨らませるためには口をすぼめている可能性が高い。

「チッ!チッ!」の場合、声帯よりも外側の気道が1/4波長の気柱共鳴菅になっていると考えると、鳴き声の基本波周波数の中央値7kHzの1/4波長が約11mmとなり、シマリスの体の大きさと合致しそうだが、気柱共鳴菅は奇数倍の倍音でしか共鳴しないので、2倍音が出ていることと矛盾してしまう。ただし声帯を弦と考えれば、2倍音が出ていることと矛盾しない。基本波の周波数は気道と声帯の相互作用で決定されるが、倍音は声帯の弦としての性質の影響が大きい、ということなのだろうか。ちなみに、3倍以上の倍音が出ている可能性もあるが、録音時のサンプリング周波数が44.1kHzなので、残念ながら特定できない。

「ホロホロ」では膨らませた頬袋と唇の開口部が1.5kHz程度のヘルムホルツの共鳴器を形成しているのだと考えられる。膨らんだ頬袋がしぼむ際、成り行きに任せれば共鳴周波数は上がるはずだが、実際はそれに該当するような現象が見られない。むしろ鳴き声の後半は音程が下がっている。そのためには、頬袋がしぼみ始めるのに合わせて唇の開口面積を絞っている可能性がある。また音の波長を基準とした開口面積が小さくなる分、音量が小さくならざるを得ないが、その事が時間的により長い鳴き声を、同じ肺活量で可能にしているのだろう。


愉快な想像

以上の考察から、シマリスの♀だけでなく♂も、体の構造上は「ホロホロ」と鳴くことができても良さそうである。オカマのシマリスの存在が証明できたら、ノーベル賞は無理かもしれないが、結構話題になりそうな気がする。


ダーウィン以降

「種の起源」が無ければ、以上のようなリバースエンジニアリングは設計者に迫る崇高な行為として正当化できたのかもしれないが、今は事情が違う。知的好奇心を満たすため、と言っておこう。

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