LED電球の電磁波ノイズ (3) 他製品と比較
以前「Panasonic LED電球 LDA7L-A1 から怪しい電波が・・・?」のタイトルで取り上げた話題の続きである。何回かに分かれそうなので、一つのカテゴリーとしてまとめることにした。今回はこのカテゴリーの3回目として、Panasonic LDA7L-A1の他、Sharp LED電球DL-L601NとNationalブランドの電球型蛍光灯EFD10EL8に同じようなノイズの発生が無いか、調べてみた。
前回、前々回と同じ中古のオシロスコープに加えて、今回は測定方法の確認のために「GigaSt:簡易スペアナ・アダプター(トラジェネ付き)」を利用した。最新はV5になっているようだが、私が使っているのは一つ前のV4である。
なおこのカテゴリーで取り上げる内容は、特に断らない限り私が所有している製品で観測された事実に基づくものである。従って、同一型番の全ての製品で同じ現象が発生していると主張するものではない。
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今回の「ノイズ」は、「電波」になる前の「電流」
前回、「電波」として輻射されるノイズの強さには、アンテナとして働くAC電源コードの影響が大きいことが判明している。そのため、ノイズ源とAC電源コードの間を流れるコモンモード電流を測ると、「電波」として輻射されるノイズの強さの傾向が推定できると考えた。
使ったのはEMI防止用カットコア
手元にあった星和電機のE04SR200935Aと言うフェライトコアと、先端が蓑虫クリップつきコードになっているRG-58Uで簡単な電流トランスを作って観測することにした。
カットコアの製造元資料によれば、10MHzより上の周波数では良好なトランスとなりそうだが、10MHz以下ではコアのインピーダンスが下がってくることによる損失が予想される。また上限周波数は、蓑虫クリップつきコード部分の影響で決まりそうだ。
興味の対象となる周波数範囲に特性のアバレなどないか、GigaStのTGモードを利用して確認しておくことにする。
GigaStによる測定方法の確認
- (1) 「TG校正」の状態にセットアップする
- (2) GigaSt V4.4ソフトウエアの設定、Center:100(MHz)、Span:200(MHz)、MODE:TG、Hold:チェックを入れる(それ以外はデフォルトのまま)
これが「素」のTG-スペアナ直結状態の周波数応答である。10MHz以下、特に2MHz近辺の落ち込みが激しいが、これはこう言う設計だと理解している。従って、5MHz以下の表示値は注意して扱わなくてはならない。なおHold機能を使っているため、黄色表示が今までの最大値であり紺色表示が最新のスイープの結果である。スイープの開始時点でHoldのチェックが外されていれば、最大値はリセットされる。
GigaStには、ワンタッチでこの状態を基準点とする機能がある。
- (3) Flat:チェックを入れる
Flatにチェックが入った直後のスイープで検出されたレベルを基準値として記憶しておき、それ以降のスイープでは基準値との比(dB値の差)を表示するようになる。
- (4) ソフトの設定はそのままで、「測定系校正」のセットアップに切り替える
これが得られたトランスの周波数応答である。ただし、前述の通り5MHzよりも低い周波数の領域については、ここで得られた値をそのまま使うのは危険である。コアの製造元資料から10MHz基準で-3dBが3.5MHz、1MHzで-10dBと考えられるので、1~180MHzの間で-7±5dB程度である。5MHz以上に急峻なピークやディップが無いので、概ね良好と言える。
電流トランスによるノイズ観測
電源トランスの出力であるRG-58UのBNCプラグを、入力インピーダンスを50Ωにしたオシロスコープに接続して観測した。
先ず器具にPanasonic LDA7L-A1を装着して電源を入れない状態で、AC電源周期に同期させて観測してみる。なおこれ以降記載しているノイズ電流の値は、観測された電圧値を入力インピーダンス50Ωで割り、トランスの減衰補正として1.5~2.0倍したものである。
ピーク値±200μA程度のノイズ電流が観測されるが、同じ電源回路につながった諸々の機器からのノイズが混合されたものだと考えられる。
Panasonic LDA7L-A1を点灯する。
ピーク値+4mA/-7mA程度のノイズ電流が観測された。前回のアンテナによる観測と比べ、正負非対称となっている点が大きく異なるが、至近距離で観測している分、詳細の特徴が良く保存されているのだと考えられる。
LED電球をSharp DL-L601Nに取り替え、引き続き観測する。
ピーク値±400μA程度で、Panasonic LDA7L-A1よりも1桁小さく、また電源を入れない状態のノイズよりは十分大きな値である。
実はNationalブランド電球型蛍光灯EFD10EL8はこの時点で脱落してしまった。
今回の測定方法では、点灯しても消灯した状態からノイズの増加が認められなかったのである。ただし、コールドスタート時に広い周波数範囲で強いノイズが感じられる事に気付いてはいるが、一旦点灯してしまった後に再現させる場合、相当長い冷却時間を置かなければならないので、今回は観測を諦めた。発生頻度が低いので問題は少ない、と言うことかもしれない。
Panasonic LDA7L-A1の詳細観測
基本周期の確認結果は、前回と波高が異なる以外はほとんど同じである。周期が微妙に違うが、LED電球の温度変化による影響の様だ。
個別パルスの拡大では、振動が減衰する様子が良くわかる様、トリガポイントを左から15%の位置にずらしてみた。
前回の観測と比べて、
- バースト長が短い → 送信・受信アンテナの周波数特性でフィルターされる前の、分布周波数幅の広い状態を観ている
- 複雑な構造があり、1/2の周波数(60MHz付近)の成分がありそう → 前回はアンテナの周波数特性で隠されていた。60MHz付近の成分があるのは間違い無さそうだが、さほど強くないと思われる。
Sharp DL-L601Nの詳細観測
この製品からのノイズパルスは周期がかなり不安定で、消灯したときにも存在するノイズと波高の差が少ないため、少々難航した。古いとは言うものの、デジタルオシロの機能があったからこそ観測が可能になったと言えるかも知れない。
この製品ではどうやらスイッチ素子がOnする時とOffする時の両方でノイズパルスが発生している様である。下の画面右半ばの実線のカーソルと重なっているのがOn時のパルスで、点線のカーソルと重なっているのがOff時のパルスの様だ。基本周期約11μs(91kHz)、On時間約4μs(Onデューティー比約37%)であって、妥当な値のように思える。
On/Offパルスの間にも不規則なバースト状の波形が複数観えるが、これらがこのLED電球から発生しているのかどうか、不明である。
このまま単純に時間軸を短いレンジに切り替えていっても、目的のパルスを選んで拡大するのは困難である。それに対処するため、以下のような観測方法を採った。
- リアルタイムサンプルレートの最大値100MS/sに設定する
- 記憶するサンプル数も最大にする
- 良好と思われるサンプルが得られたら、サンプリング停止する
- ズームアウトして拡大観測する波形を選び、それが画面の中心になるよう、水平表示位置を調整する
- ズームイン(必要なら水平表示位置の微調整も)して、目的の波形を観測する
下の画面はサンプリング停止してズームアウトし、前の画面に相当する状態にしたものである。
引き続きズーム機能で、実線カーソルを合わせたOn時のパルスと思われる波形にズームインする。
ピーク間周期約50ns(20MHz)のバースト波である。ピーク電流±300μA程度は、Panasonic LDA7L-A1のノイズ電流よりも1桁小さい。周波数も約1/6と低く波長が長いため、電源コードの送信アンテナとしての輻射抵抗が下がることも相まって、輻射されるノイズ電波の強さはかなり弱くなると予想される。
なお、画面右側のRead-outはサンプル全体に関するものなので、ズームしても値は変わらない。
引き続き、点線カーソルを合わせていたOff時のパルスと思われる波形にズームインする。(前の画面とは時間軸のレンジが違うことに注意)
On時のパルスに、周期約500ns(2MHz)の波動を足したように見える。ノイズの強さはOn時パルスと同じ程度、またはやや弱い。
20MHzと2MHzを中心とするノイズがあると思われる波形が観測された。それぞれの周波数について受信機で確認した結果、
- 20±3MHzの範囲で、LED電球および電球から離れた場所の電源コードの至近距離でノイズが認められたが、電源コードから1mも離れると判らなくなる程度の、比較的弱いノイズである。
- 2±0.8 MHzの範囲で、LED電球の至近距離でやや強いノイズが認められたが、LED電球から離れると急激に弱くなり、1mも離れてしまうと判らなくなる程度の、到達距離が極めて短いノイズである。
今回のまとめ
前回LED電球からのノイズを実際受信したのは、CISPR15で言うところの「放射妨害波」であり、今回観測したのは同「妨害波電力」に相当する内容である。もちろん、CISPR15および同関連規定で定めた手順とは全く異なる方法で得ているので、値そのものは比較できるものではないが、基本的な考え方を共有している、と言う意味である。
前回、私がPanasonic LDA7L-A1のノイズに対して出した結論は「住宅密集地で一家に1つ使う程度なら問題ないが・・・」と言う、どっちつかずのものだった。全ての場合について問題ないと言うには、少々強過ぎるノイズだと思う。それとの比較で、Sharp DL-L601Nは少なくとも1桁(電流で、電力なら2桁)ノイズが弱い様なので、相対的にもう少し安心できる、と言えそうである。
それにしても今回最も印象的だったのは、電球型蛍光灯からは今回の方法で検出できるほどのノイズが発生していなかったことである。
今までも何回か述べたと思うが、今どうしてもLED電球でなければならないのか、良く考える必要がある。現時点で白熱電球を置き換えるのであれば、よほど頻繁に点滅を繰り返したり、取替えの手間がもの凄く大変だったり、僅かでも紫外線が混ざるとダメだったりしない限り、電球型蛍光灯を選ぶのがベストチョイスではないだろうか。理由はノイズだけではない。
- 60W相当と言われているLED電球の全光束(電球色で450lm程度)は60W型シリカ電球(810lm)よりも遥かに少ないが、60W相当の電球型蛍光灯(電球色)はキッチリ810lmある。
- 前項を効率で見ると、同じPanasonicで、LED電球LDA7LA1は450lm/6.9W=65.2lm/Wだが、パルックボールEFD15EL/12は810lm/12W=67.5lm/Wと上回っている。
- LED電球の寿命4万時間は劣化による減光に基づき「予想」されたもので、偶発故障の可能性が加味されていない(「MTBF 5千時間でした」と言う話が無いとは言えない)。
今、10年の寿命を期待してLED電球を買っても、今までより暗くなってしまい、同じ明るさを求めると電球型蛍光灯よりも電気代が余計にかかり、2年もしない内に「プッツン」と切れてしまうかもしれない上に、ノイズを撒き散らしていると非難されるリスクを負うことになるかもしれませんよ、と言うことだ。それなら寿命2年の電球型蛍光灯でしばらく様子を見た方が賢いのではないだろうか。LED電球のノイズ規制に向け、関係法令等の整備が進められていると言う噂もあるようだし。
いずれLEDが照明光源の主流になるとしても、それは電球ではなく、LEDを組み込んだ照明器具が本命である。本当に10年以上の実用寿命があるのなら、ソケットで交換できるようにしておく必然性は無い。下手をすると、電球の形だと寿命が来て交換するよりも、ソケットが緩んで点かなくなったのを直す手間の方が多いかもしれない。
白熱電球の置き換えによるエネルギー消費削減の名目でLED電球が喧伝されているが、本音で比重が大きいのは商品単価の高い代替製品を普及させることで景気回復の一助とする目的ではないかと思っている。LED電球が言われている能書き通りの商品なら、E26なりE17なり、電球の刺さるソケットの数だけ売れてしまえば、その先10年はパタッと売れなくなる商品の様に思えるのだが(だからこそ「早いもの勝ち」的な新規参入が多いのかもしれない)。
LED電球でも随分安く売られている製品もあるので、買う・買わないは各自の判断だ。しかし、相場より安く売られている製品にはそれなりの訳が必ずあると、私は思っている。
What’s next?
予定なし。ネタが無い訳ではないが、このカテゴリーを連続でやるのは疲れるので・・・。
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こんばんは。以前より拝読させていただいております。
いよいよLED証明器具も電気用品安全法の範囲内に含まれるよう、法改正が行われるようですね。
http://jp1lrt.asablo.jp/blog/2010/10/21/5430089
投稿: JP1LRT | 2010年10月21日 (木) 19時13分
JP1LRT さん、
貴blog拝見しました。
コメントいただいた件了解です。経済産業省のホームページで確認しました。
例のPSE騒動以来、個人的に好い印象を持っていない電気用品安全法でノイズ規制されるのはちょっと微妙です。
また電波行政を司る総務省ではなく、経済産業省所管の法律(正確には政省令)と言うのもかなり微妙ですね。
まぁ、お役所の縄張りの関係なのでしょう。
仮にノイズ規制されるとして、問題なのはその中身です。
「技術基準概要」に「既存の電気製品に共通の技術基準((略)・・・、雑音の強さ、・・・(略))を適用する。」とあるので、極端に粗悪なものは排除されるでしょう。
しかし規制値をクリアしていれば、一部に影響が出たとしても、役所がお墨付きを与えたと言う事なので要注意だと思います。
無い方がマシと言いたくなるような中途半端な規制なら、止めて欲しいものです。
投稿: エンジニア | 2010年10月21日 (木) 20時15分