« デジタル一眼のOLPFはWebカメラには使えない | トップページ | 天体改造C920のIRカットフィルターテスト:月、土星 »

2012年5月28日 (月)

天体改造C920にIRカットフィルター装着

前の記事に書いたとおり、IRカットフィルターをジャンクのデジタルカメラから調達する計画は頓挫してしまった。ジャンクカメラに近い価格水準で入手できないか検索するといくつかそれらしいものがヒットするが、ほとんどが「受注生産します。問い合わせ窓口はコチラ」的なものだ。

Search_ir_cut_2

あまり一般的ではないキーワードにGoogleが出してくる広告は的外れなものばかりなのだが、今回は違った。「試作・実験用に1点から購入可能」とある。このような場合、外国製の商品を取り扱っている商社で、商社マンの人件費が乗っかった高い価格水準だったりする事もあるが、今回は「別途オリジナル品の製作も承ります」とあるので、そうではなさそうだ。値段が折り合えば、これは良いのではないだろうか。

!!注意!!

  • 今回紹介するフィルターは、一見するとプラスチックフィルムのように見えるが、薄いガラス製である。そのため無理に曲げたりすると割れる場合があるので、注意すること。
  • 出荷状態のフィルターの端面は面取りされているようで危険では無さそうだが、割れたガラスの端面は極めて鋭利である。触れると切傷などを負うおそれがあるので、注意すること。
  • 干渉フィルターは独特の魅力的な色合いを示すので、小さい子供をはじめ多くの人の興味を引くだろう。このフィルターが割れやすいガラス製品であることを知らない人、特に小さな子供が触れる可能性のある場所に、このフィルターを放置しないよう注意すること。

/*******  *******/

IRカットフィルターの通販

セラテックジャパン(株)という長野県の会社だ。「電子材料・光学材料の加工専門会社です」とある。

既製品に、ほぼ望んでいた通りの商品があるし、値段も納得できる。他に面白そうな商品も既製品として準備されているが、今回はIRカットフィルター2の22mmを選んだ。後悔したくなかったので、外観品質の高い方、IRC2-22Aを注文した。

フィルター特性的にはIRカットフィルター1で良かったのだが、裏面無コートなのが気になった。光量ロスそのものは4%でたいした事はないが、ゴーストやフレアが出易そうなので敬遠した。IRカットフィルター2は短波長側の通過帯域が広がっているので、色彩表現が一味違うらしい。どんな絵になるのか楽しみである。

またサイズは画像センサーの大きさを考えると10mmで充分だが、少し大きいほうが取り付けの自由度が高そうだと判断した。しかしこれが大きな間違いだったのだ。

少量注文の場合、送料・手数料の占める割合が大きいのが悔しい。そのため迷った場合高価なほうを選んで、商品価格の相対的割合を高くしたい、という心理も働いたようだ。実際は安い商品を選んだ方が全体の金額は安くなるのに、矛盾した行動である。この辺の話は行動経済学の本に出てきそうな気がする。

 

フィルターの装着場所

IRC2は厚さ0.21tと極薄だが、デジタル一眼のOLPFもそれほどではないもののかなり薄く、Webカメラに内蔵させるのが適当と考えていた。

C920_internal

改造のため分解した時に赤線の範囲(29x26)が利用可能だという印象を持ち、25mmは楽勝だと思い込んで22mmを注文してしまった。実際はリブや出っ張りが干渉して、利用できるのは緑線の範囲、幅20mm x 高さ17mmであることが、フィルターが到着してさぁこれから作業を始めようかとWebカメラを分解してから気付いた。

これには参った。典型的な思い込みによる失敗だ。ちゃんと測ると、オートフォーカス用ボイスコイルモーターの開口部が8φなので、10mmで全然問題なかった事になる。

もし私と同じような改造をしようという奇特な方がいらっしゃるなら、10mmを選ぶのが無難だろう。正確に測っていないので保証できないが、下の写真を見る限り厚さ方向にも2mm程度の余裕があり、ボイスコイルモーターの筐体に直接、またはマウントを介して周囲の黒色プラスチック部品にフィルターを取り付けることが可能だと思う。

Wbcam_gap_2

実際にそうする場合は、なにか厚さの判っている物を、フィルターを装着しようとしている所に仮止めし、Webカメラを仮組みして充分な余裕があることを確かめて欲しい。

ガラス切りで切り分けるという考えがよぎったが、ガラス切りを使った事があるのは随分昔のことで、その当時も決して上手ではなかった。また手許に今ガラス切りはない。相手は0.21tのフィルターである。薄いガラスをきれいに切るのは難しい。この薄さのガラスを安心して切れそうなガラス切りは、新たに10mmのフィルターを入手するより高価だ。

そもそもガラス切りを使って一発勝負できれいに切れると思うことが間違っている。フィルターの製造元では切断砥石の様な物で切り分けているらしい。ここは作戦変更。ホルダーを作って、Webカメラに近い場所に装着することにした。

 

IRカットフィルター

到着したフィルターはモノがモノだけに、その大きさを考えるとあり得ない位厳重に梱包されていた。

Filter_2

上の写真は、梱包材の上にフィルターを取り出して撮影したもの。フィルターは、弱粘着性の保護フィルムにはさまれて、下に敷いた半導体製品を入れるような水色の袋に入っていた。保護フィルムに「上面IR面」とマーキングしてあるが、これがないと肉眼ではどちらにIRカット加工されているか、ほとんど見分けられない。保護フィルムから取り出したら、どちらがIR面だったか常に注意していないと判らなくなるだろう。IR面が対物レンズ側に向くようにしたつもりだが、今回の使い方では逆になっていてもあまり差は無いかもしれない。

上の写真だとフィルターはほとんど無色透明に見えるが、光源との角度によって様々な赤(反射光)や青(透過光)に見える。また蛍光灯やLED照明のような、単色光に近い光を含む光源からの光では、もっと異なる色合いに見える場合もある。

このフィルターの「正しい」色を調べてみようと、窓から差し込む日の光に組み上がったフィルター正対させ、透過光を白紙に写すと僅かに青味を帯びて見えた。

Filter_color_2

短波長側の通過帯域が広いことが反映されていると考えると、納得できる結果だ。

 

フィルターホルダー

先ず地上の風景でフィルター有無の差を比べるため、容易に付け外しできるよう、望遠鏡の筒先に取り付ける方式のホルダーを作った。

Holder2_2

一時的に使うだけなのでティッシュペーパーの空き箱のボール紙で作ったセルに、厚手のトレーシングペーパーで造ったマウントを取り付けた簡単な構造である。フードを外した望遠鏡の筒先に取り付けるとF30程度まで口径が絞られ解像度が低下するが、色合いの比較が目的なので付け外しの容易さを優先した。なお使うときは手前側を上に向ける。

天体撮影に使うホルダーは、最初同じようなトレーシングペーパーを使ったマウント方式を試したが、これだと余計な力が加わってフィルターを湾曲させてしまっていると判明した。もっと薄手で柔軟な素材なら湾曲の問題は避けられそうだが、長期間安定に固定しておくことと両立させることは困難ではないかと懸念されたので、もっと堅実な構造を選ぶことにした。

下の写真手前中央のフィルターの形に凹みを作ったマウントと、右側の平らなマウントの間にフィルターを挟み、一番左側の円筒状のセルに取り付けた上、後ろの42→31.7アダプターに押し込むことにした。

  Holder1_2
材料は全てボール紙である。

セルは42mm雌ネジの内側にちょうど入る外径で長さ20mmの円筒と、その内側にちょうど入る外径で長さ10mmの円筒を重ねて接着し、その段差部分に補強を兼ねた仕切り板を接着した構造になっている。

マウントは最終的に下のような構造になった。試行錯誤しながら現物合わせ・眼見当で作業したので、図は再構成した理想的なものであって、実際はマウントを綴じる為の穴が不等間隔だったりしている。

Mount_assy_3

マウントの外径を、セルに軽く圧入しただけで固定できるよう調整した。圧入した時「④スペーサー兼補強板」がセルの仕切り板に当たって位置が安定する。マウントを2分割構造として糸で綴じるようにしたのは、後で必要に応じてフィルターを取り出し・再組み立て出来るようにしたかったからである。

ボール紙は切ったままだと切断部分に「バリ」が生じるので、サンドペーパーで形を整える必要がある。またいきなり仕上げ塗装したのではきれいにならないので、ペーパーがけの後、仕上げと同じ種類のクリアで塗装する必要がある。これは紙や木でできた模型を塗装仕上げする前の下地造りと同じだ。

下は、完成したホルダーにフィルターを装着し、42→31.7アダプターに押し込んだ写真である。

Complete_2

等間隔でない綴じ穴がバレないよう、少しそっぽを向かせている。

冒頭「!!注意!!」と、さんざん脅し文句を書いたが、マウントしてしまうと結構丈夫である。ちょっとやそっとでは割れなさそうに思える位だ。しかし同時に、割れるときはあっけなく割れそうな気もする。

ここにフィルターが入ることで余計な視野絞りが加わるが、Webカメラの視野よりも充分大きいので問題無い。

 

IRカットフィルターの効果

Webカメラを望遠鏡の直焦点にセットし、IRカットフィルターを筒先に取り付け、地上の風景でその効果を見た。比較のため途中でIRカットフィルターを取り外し、さらに暫くして光害防止フィルターIDAS LPS-P1を装着してみた。天体望遠鏡は数m先の風景に焦点が合うように造られていないが、各種延長等を駆使してなんとかした。

動画の中に書いていることの繰り返しになるので、個々の場合については触れない。

この場合に色再現の重要なポイントだと思っているのは、中央に写っている蕾や右側の花の中央部に見られる「明るい緑色」がうまく再現されているかどうか。スチルカメラの画像以外でうまく再現されているのは、IRカットフィルターを取り付けた場合だけだと思う。

IDAS LPS-P1でマゼンタ被りを起こすのは、水銀灯などの光を取り除くためGチャネルの波長領域に多数の阻止帯があり、相対的にRとBチャネルの感度が高過ぎになるからである。実際にはRチャネルにも感度低下が起こっている様で、ホワイトバランス固定だと相当青味が強く写るが、自動ホワイトバランスがR-B間の比率を調整してしまうので目立たない。

今回見直すと、過去話題にした波長850nm付近に画像センサーの感度があるせいで画面に靄がかかったようになる現象は、以前ほど自信を持って「ある」と断言できる状態では無さそうだ。被写体に依るのかもしれないし、IRカットフィルターなしの動画は色彩が普通ではないのでコントラストが極端に低いと錯覚したのかもしれない。

ちゃんと天体撮影用にセットしたフィルターを使えばもっとマシな動画が撮れるので、WebカメラとIRカットフィルターの名誉(?)のため、掲載しておく。

フルHDだと思って見ると甘い動画だが、F値が使ったレンズの1/2くらい明るくないと、レンズに収差が全く無くても使っている画像センサーの解像度を引き出せないことが判っている。そう思って見直せば、そんなに悪くない。ただもう少しコントラストが強くても良さそうな気がするが、元々付いていたZeissに合わせた信号処理系にこのレンズは「想定外」と言う事なのかも知れない。

 

余談

IRカットフィルターを探しているとき、LogicoolのWebカメラC270はセンサー側にフィルターが装着されているという情報を見かけた。こっちを使っておけばIRカットフィルターで苦労することは無かった様だ。価格も1/5位で済んでしまう。

C270の仕様は1.2M画素で最大720p。写真では1/4型の画像センサーのように見えるが、その通りなら、画素ピッチは今回使ったC920と似たようなものだろう。低光量時の感度も似たようなものではないかと思えるが、試さないと判らない。

以前安く買ったBWC-35H01が値段相応だったので、それに懲りて今回は高い方を試したが、ダメ元で安い方から試すのが正解だったかもしれない。

 

今回のまとめ

かなり当初の構想に近いIRカットフィルターが取り付けられたと思う。事前に寸法をちゃんと押さえていれば、コスト的にも仕上がり的にも、もっと構想通りのものになったはずで、これは反省すべき点である。

今日、多数安価に売られている製品に使われているものであっても、部品単体で入手するのは難しい場合が増えている。大抵の電気・電子部品が秋葉原で入手できたのは30年位前まで、だったのではないだろうか。今では日本製がある部品でも国内に適当な小口販売チャネルが無く、DigiKeyなどの海外通販で海外メーカー製の同等品を買っている場合がある。昔からある商店街が寂れ、チェーン店や大型店に取って代わられているのと同じ様なことが、製造業では2~30年早く起こっていたのかもしれない。

今回はセラテックジャパン(株)でIRカットフィルターを小口販売しているのを見つけられたのが幸いだった。本来の目的とは違いそうだが、個人相手でも快く対応してくださったので助かった。この点、感謝したい。

天体画像で比較できればもっとよかったと思う。少し前に金環日食を起こした月が見易くなってきているが、相変わらず天候に恵まれない。

|

« デジタル一眼のOLPFはWebカメラには使えない | トップページ | 天体改造C920のIRカットフィルターテスト:月、土星 »

趣味」カテゴリの記事

自然」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 天体改造C920にIRカットフィルター装着:

« デジタル一眼のOLPFはWebカメラには使えない | トップページ | 天体改造C920のIRカットフィルターテスト:月、土星 »