晴れ、ときどき天文道楽
私の天文道楽の虫は、普段は冬眠していて、ときどき何かの拍子に目を覚ます。今回は金環日食で騒々しくなった世の中に起こされた。目を覚まして日食観測の準備をしているのかと言うと、そうではない。これは、余りありがたくないジンクスのせいでもあるが、結局私はヘソ曲がりだと言うだけのことだ。
永年懸案だった改造Webカメラによる天体写真撮影を試している。これはまた別の機会に書くことにしたい。今回はWebカメラを取り付けている望遠鏡とそれを入手するまでの経緯を書く。
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天文マニアになりたかった頃
1980年台初めごろだったと思う。天文道楽のドロ沼にどっぷりつかりたい、と思いつめた時期がある。入門用の7x50(倍率7倍x口径50mm)双眼鏡はもう物足りない、と言うか、眼視で最初に見えた時はうれしいが双眼鏡で長時間眺めていてもそんなに楽しいものではないし、そもそも手が疲れる。口径200mm以上の高性能な望遠鏡で天文雑誌に投稿されているような写真が撮りたいと思うようになった。
記憶は必ずしも正確ではないが、私が望んだような本格的な天体望遠鏡、そしてそれを載せて天体を安定に追尾できる赤道儀は当時市販されているものが少なく、あっても相当高価だったと思う。そんな時に「天文ガイド編:本格派のための反射望遠鏡の製作(研磨から赤道儀まで)」と言う書籍に出会った。
オリジナルの天体望遠鏡を作りたい、と思っている人にうってつけの本だと思う。かなり具体的・実用的な内容であるのと同時に、応用が利くような書き方になっているのが良い。今読み返しても、エレクトロニクスの部分を除き、古さはあまり感じない。と言うのは、機構的な部分や反射型光学系では本質的な改革が起こっていないからだろう。敢えて違いを挙げると研磨に人工ダイアモンドが容易に利用できるようになった事がありそうだが、あまり本質的なこととは思えない。同じような書籍がその後あまり出版されていないためか、古本に結構良い値段がついている。もし図書館などで見かけたなら、一度手に取ってご覧になるようお勧めしたい。
この本を何回も読み返していると、自分でも望遠鏡が作れそうだ、と思えるようになって来た。超えなければならないハードルは少なくないが、時間をかければ何とかなるだろう。旋盤などの工作機械が必要だが、望遠鏡ができてしまえばもう要らないのだから、どこかで借りるよう手配する必要がある。買い揃えるには望遠鏡を買うよりも多くの費用が要るだろうし、そもそも置いておく場所も必要だよね。え?
置いておく場所、出来上がった望遠鏡にも要るよねぇ・・・。
当時考えていた「本格派」な望遠鏡は、赤道儀や架台まで含めた重量が100kgを軽く超えてしまうはずだったから、普段はどこかにしまって置いて使うときだけ出してくるのは現実的ではない。望遠鏡を使える状態で置いておく場所、つまり自前の天文台が必要だ。これは誤算。望遠鏡を作るだけなら5年くらいの期間で何とかなるだろうと思っていたが、自前の天文台となると10年20年の話、人生設計そのものに関わってくる。「本格派」天文マニアへの道は険しいと思い知らされたのだった。
「本格派」望遠鏡計画はプロジェクトから夢に路線変更だ。
フローライトならいいんじゃあないかな
天文道楽に人生をかける、と言うと少々大げさだが、道楽に合せて人生設計を決めてしまうほどの覚悟は無かった。そうは言っても、7x50双眼鏡で我慢できるものでもなかった。そんなモヤモヤした心に、高橋製作所のFC-50卓上経緯台の広告はちょっとした衝撃だった。双眼鏡と同じ口径だが、蛍石アポクロマートなら随分良く見えるんじゃあないかと言う気分になる。南向きの窓辺で月などを眺めたら随分とオシャレだよね。
イカイカン経緯台では天体写真は撮れない。これは見送りだね、と思っていたら、Skyキャンサー赤道儀とのファミリーセットが出てきた。口径50mmの望遠鏡に多くは期待できなくても、モータードライブも付けられるからノータッチガイドで星野写真もできそうだ。予算的にも何とかなる範囲だから、もうこれしかないかな、と「本格派」望遠鏡に比べてかなり手軽な方向に流れてしまった。
当時、梅田駅から東にしばらく行った所にあった協栄産業の大阪店(だったと思う)に出向くと、比較的安価なビクセンのモータードライブMD-5も使えるとの事。これなら予算の範囲でひとまわり大きなFC-65に手が届く。
ファミリーセットには眼視用のアイピースなどに加え、写真撮影に必要なアクセサリーが一通り標準で付属していたが、利用するカメラのマウントに合わせるアダプターだけは別売りだったので、ペンタックスKマウント用アダプターと先にも書いたビクセンMD-5を併せて購入。これで直焦点撮影、アイピース拡大撮影、さらに星野写真撮影もできる屈折望遠鏡システムが手に入った。当初の目論見に比べて望遠鏡の性能は数段劣るが、機動性と汎用性に優れ、何と言っても実際に望遠鏡が使えるまでの期間が劇的に短縮されたのだから、充分割に合う。しばらく使うほうの腕を磨いて、作るほうは機が熟すまで待つことにしよう、などと思っていたら30年が過ぎてしまった。
結果として、この望遠鏡が天文道楽の虫封じになったようである。
購入時期の謎
いつ買ったか思い出せないので、これを書くに当たり調査したが、少し謎の残る結果となった。
高橋製作所Webの「企業情報」→「ヒストリー」ページの1982年10月に「・・・FC-65(200台)ファミリーセット期間限定10/1~11/30」とあり、『おお、この望遠鏡は世界に200セットしかない内の1つなのか。大事にしなくちゃ』と喜んだのだが、少し違うようだ。鏡筒の製造番号は1983年製造を示唆しているようだし、さらに同Webの「製品情報」→「歴代カタログ」ページで、「フローライト屈折赤道儀ファミリーセット」は1983年に記載されている。
おそらく「期間限定」の後もファミリーセットの販売は継続されていたのだろう。ファーストライトが南中少し前のM42だった事は良く覚えているので、私が購入したのは1983年の初冬だった可能性が高い。しかし製造番号の上位2桁が製造年と無関係なら1982年11月だった可能性も否定できない。まぁ、どちらであったとしても何かが大きく変わる訳ではない。気持ちがすっきりしない、と言うだけのことである。
蛍石レンズのメンテナンス
購入直後の1年程度は時々使っていたが、その後10年以上休止期間が発生した。これも記憶がはっきりしないが1990年代の半ばくらいだったと思う、大掃除か何かのついでに望遠鏡を見たら、蛍石レンズが曇っているのに気付いた。「あれ、コーティングがはげてしまったのかな」などと思いつつも、仕方が無いので再研磨してもらった。\15,000くらいの費用だったと思う。
最近知ったのだが、私が買った頃のFCシリーズの蛍石レンズは無コーティングだったらしい。そうだとすると蛍石(CaF2)の表面が空気中の水分(H2O)や炭酸ガス(CO2)と反応して、消石灰(Ca(OH)2)や炭酸カルシウム(CaCO3)で粉を吹いたようになっても不思議ではない。保管時に生石灰(CaO)系の乾燥剤でも入れておくと発生を遅らせることができたと考えられるが、無コーティングだと長い期間が経てばいずれ再研磨が必要になるのではないだろうか。
再研磨後、以前とほとんど同じ環境で保管しているが、今のところレンズの曇りは発生していない。再研磨の際、コーティングしてくれたはずだと思う。
ありがたくないジンクス
1972年10月8-9日のジャコビニ流星群の時、天文マニアの友人に誘われ暗い空を求めて山に登った。世間では大流星雨を予想する声が多数あったが、それに反してほとんど星が流れなかった。
それ以来、天文イベントに準備万端・意気込んで臨むと、かなりの確率で振られるイヤなジンクスができてしまった。なので、今回の金環食もNDフィルターなど準備すると雨になりそうな気がするので、やっていない。5月21日の朝起きて晴れていたら、コチラを参考に、有り合わせの材料でピンホールカメラでも作ろうと思っている。
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