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2012年10月26日 (金)

伝統的なテスラコイルのシミュレーション

高圧トランスとスパークギャップを利用する伝統的なテスラコイルがどのように動いているのか、回路シミュレーターを用いて調べてみた。
回路シミュレーターは SIMetrix/SIMPLUS Intro Release 6.2e を利用した。これは
SIMetrix Technologies Ltd のサイトからダウンロードできる無償・無期限のデモ版である。シミュレーションできる回路規模が制限されていて一部利用できない機能があるが、機能ブロックごとにシミュレーションを行えば、大抵の場合問題にはならないと思う。なおダウンロードの際、Eメールアドレス、氏名、および居住国の登録を求められる。

ユーザーインターフェイスは全て英語だ。インターネット上に日本語の解説サイトが複数あるので英語が苦手でも何とか使えると思うが、日本語化されている場合に比べて使い勝手が劣ることは否めない。CQ出版から出ている解説本は高価で付属するアプリケーションのバージョンも古いが、豊富なサンプルや本家からダウンロードしたものには含まれない国産半導体や真空管のモデルが付いてくるらしい。そういったオマケ目当てで購入するのもアリかもしれない。

記事の準備がほとんど終わりかけた頃に気付いたのだが、Richie's Tesla Coil Web PageTesla coil operation および Tesla coil operation (part 2) セクションに、今回の記事とほぼ同じ内容を含む、伝統的テスラコイルの動作原理に関する包括的な解説が掲載されている。
Richie's Tesla Coil Web Page の管理人は実際にテスラコイルを製作して波形測定なども行った上で記事を書いているようだ。今回の私の記事は、現象の解釈は Richie's Tesla Coil Web Page とほぼ同じであるが、更に一歩二歩踏み込んだ結論を導けたのではないかと思っている。

/*******  *******/

略語・用語など

海外のテスラコイル関連サイトを覗くと、なじみの無い略語やテスラコイルに固有な用語が並んでいたりする場合が多く、かなりストレスを感じたのは事実である。しかし慣れてしまうと便利なので、この記事でも使うことにしたい。そのため、この記事では最初にそういった略語・用語を使う場合に「略語(英語のフルスペル:日本語の簡単な説明)」および「用語(日本語の簡単な説明)」のように本文に記載する。

 

SGTCの動作概要とこの記事で扱う範囲

Fig. 1は簡略化した典型的なSGTC(Spark Gap Tesla Coil:スパークギャップを使った伝統的なテスラコイル)の回路である。"Primary"と"High voltage capacitor"で構成される共振回路、および"Secondary"と"Torus"のキャパシタンスで構成される共振回路は同じ周波数に共振する複同調回路を形成している。

1

"High voltage capacitor"は、先ず"High voltage transformer"の電流で充電され、電圧が充分高くなったタイミングで"Spark gap"にスパークが生じて短絡状態になり、蓄えられた電荷のエネルギーによりテスラコイルが駆動される。以上の動作は、利用しているスパークギャップが固定式のでもRSG(Rotary Spark Gap:モーターでスパークギャップの一部を回転させることで、スパークの起こるタイミングを制御したもの)でも共通である。

今回の記事ではテスラコイルの挙動そのものに集中したいので、予め"High voltage capacitor"に10kVの電圧が蓄えられた状態からスタートし、10μs後にスパークギャップに相当するスイッチが閉じるシナリオでシミュレーションを行っている。

Fig. 1ではスパークギャップでトランスの二次側を直接短絡するようになっているが、ここの"High voltage transformer"にはNST(Neon Sign Transformer:ネオントランス)のような、二次側が短絡またはそれに近い状態になった場合に定電流的に電流制限する作用のあるものが使われるので大丈夫だ。

余談だが、国内で入手できるNSTの典型的な出力定格は15kV/20mAで、これは「電気用品の技術上の基準を定める省令第2項の規定に基づく基準・J61050(H15)ネオン変圧器-一般及び安全要求事項」の内「7 表示・7.1 必須表示・f)およびg)」によれば定格無負荷出力電圧/短絡電流である。しかしJIS C 8109-1991 ネオン変圧器の「3.8 定格無負荷出力電圧 (no-load rated output voltage)」に意外なことが書いてあるのに気づいた:「…変圧器出力巻線の端子間の最高電圧。ピーク値を 2 で除した値とする」、と。これに従うと、15kV/20mAのNSTの出力電圧はピーク値30kVで、これは21kV RMSに相当する。私が見た限り、インターネットからアクセスできる資料は全て15kV RMSとして扱っているが、大丈夫だろうか・・・?

 

想定したテスラコイル

Fig. 2のようなテスラコイルを想定してシミュレーションを行った。

2

コイルのインダクタンスなどはRF Inductance Calculator を利用して、Design frequency = 120kHzで求めた。シミュレーションモデルの共振周波数は約140kHzで若干異なるが、差は大きくないのでこの値を使っている。また DeepFriedNeon で想定したでキャパシタンスのトーラスが容易に実現可能な範囲であることを確認している。

 

シミュレーション・モデル

シミュレーションに使ったモデルはFig. 3の通りである。

3

C1がFig. 1の"High voltage capacitor"である。端子間電圧が10kVになるよう初期電荷を指定している。またテスラコイルの一次側インダクタンス165μHとで、二次側と同じ140.3kHzに共振するよう容量を7.8nFに決めている。

C1の容量は電源トランスの出力インピーダンスとの関係も考える必要がある。先に触れた「典型的」なNSTの定格に対して最適な容量は約3nFなので、今回の値は3倍近く過大であり、そのためNSTの定格無負荷出力電圧よりもかなり低い電圧までしか充電できない可能性が高い(ローパスフィルター的な動作になる)。しかし15kV/60mAのNSTが使えるなら今回の値がほぼ最適値になるはずなので、この値で議論を進めることにした。

テスラコイル一次・二次間の結合係数は、SIMetrixの回路図エディタでF11を押すと開く「シミュレーター・コマンド・ウインドウ」でFig. 4の様に"K1 L1 L2 0.2"と指定することが出来る。ただしここで指定した内容は自動的に回路図には反映されないので、Free textとして手動で追加している。

4

テスラコイル二次側に並列に接続したR1=10MΩはストリーマー(テスラコイルのトーラス部分からの放電)による負荷のつもりだ。50kVで5mAのストリーマーを想定していることになる。またR4はスパークギャップが短絡状態になったときの等価抵抗である。これはS1のon抵抗として設定することも可能だが、それだと値が回路図に反映されないので、独立した抵抗を追加した。その代わりS1のon抵抗は非常に低い値(1μΩ)に設定し、またoff抵抗は非常に高い値(1TΩ)にしている。

このモデルを使って過渡応答シミュレーションを2ms実行した。なおFig. 5の様にステップ応答のシミュレーションのモデルを使っても全く同様の結果が得られるが、Fig. 3でスイッチが開いている期間についてC1の左側のインピーダンスが違っていることに注意する必要がある(電圧源の出力インピーダンスは常にゼロ)。

5

 

過渡応答シミュレーション結果

Fig. 6の下からC1左側の電圧、一次巻き線電圧と電流、二次巻き線電圧と電流、そしてS1を制御する信号の状態である。

6

一次・二次巻き線の電圧・電流ともに振動しながら包絡線が概ね指数関数的に減衰していることは直感通りだが、共振周波数とも異なる周期数十μs程度の構造があるように見えるのは直感に反するかもしれない。

スパークが始まった付近を拡大したのがFig. 7である。

7

一次巻き線電圧はスパークの開始直後にC1に充電された電圧に応じて負の方向に立ち上がり、テスラコイルの共振周波数で振動を始める。同電流は位相が90度遅れているので徐々に立ち上がるが、そのことを除けば同様である。しかし振動は急激に減衰し、十数μs経過したところでくびれたようになっている。
二次巻き線電圧・電流は、一次巻き線の振動が減衰するのとは反対に増加し、一次巻き線の振動がくびれたところで最も膨らんでいる。その後は、一次側・二次側ともに今までの動きを後戻りするように振幅が変化し、一次側・二次側の振動は約35μs程度の周期で交互に膨らんだりくびれたりしながら、全体として徐々に減衰していることが分る。

ここまでの結果に対応する実際に動いているテスラコイルで測定された波形の写真がRichie's Tesla Coil Web PageのReal Tesla Coil waveformsセクションの後半に掲載されている。シミュレーション結果と実測写真を比べると、実測写真の方が速く減衰していることを除けば、割合と良く似た傾向を示していることが分る。

Fig.7では各巻き線の電圧・電流が同時に膨らんだりくびれたりしているので、共振回路が保持している電気的振動エネルギーそのものが一次側・二次側で交互に増えたり減ったりしていると考えるべきだろう。つまりこう言うことだ。

  • スパークギャップが放電開始する直前に、C1は充電された電圧(V)に応じたエネルギー(0.5CV2)を持っている
  • 放電開始後C1はL1と共振回路を形成し、エネルギーはC1とL1の間を行き来する
  • 前項の現象と並行して、L1とL2間の電磁結合によりエネルギーはL2、C3およびC4で形成された共振回路にも伝わる
  • 一次側のエネルギーが二次側に伝わることで減少し、一次側の波形の最初のくびれに到達すると一次側のエネルギーが最低・二次側のエネルギーが最大になる
  • 電磁結合は相互的なので、今度は二次側から一次側にエネルギーが伝わり、二次側のくびれに到達して放電開始の状態に戻る(ただし損失と位相を無視した場合)
  • R1~R4によるエネルギーの損失があるので、以上の過程を繰り返しながら指数関数的に振幅は減少する

以上から、この膨らみとくびれを繰り返している波形がテスラコイルの働きを支える重要な仕組みの表れであると考えられ、これについては後で詳しく触れる。

 

エネルギーの分配と負荷抵抗R1を変化させたときの挙動

Fig. 3のモデルでは初期条件としてC1に0.39Jの電気エネルギーが与えられ、2msのシミュレーション期間中にほぼ全て熱として失われる。電気エネルギーが熱に変わるのはR1~R4の抵抗に限られ、どこでどれだけ熱に変わったかを考えてみた。R1が負荷抵抗なので、ここで熱に変わった電気エネルギーが出力であり、それ以外は全て損失になる。

負荷抵抗R1を100kΩ~100MΩおよび無限大まで変化させたときのエネルギー分配と、二次巻き線電圧絶対値のピーク値を調べた結果をFig. 8にまとめた。

8

Er1~Er4は、それぞれR1~R4で熱に変わった電気エネルギーの量である。数表右端の2列はテスラコイルのQを参考情報として記載したものだ。QLsはFig. 3のL2のインダクタンス、R2の抵抗値、テスラコイルの共振周波数、およびFig. 8のR1の値から求めた二次側共振回路単独のQである。またQLは、一般的に共振回路の電気的振動エネルギーをEとするとdE/dt=-E/Qであること、および今までの議論からテスラコイルのような複共振回路では電気的振動エネルギーが一次側と二次側の共振回路を行き来していると考えられることに基づき、以下の式で求めたテスラコイル全体のQである。
 QL=2*QLs*(Er1+Er3) / (Er1+Er2+Er3+Er4)

一次側巻き線のQ=QLp=2*π*f*L1/(R2+R4)からもQLを以下の式で計算できるが、QLが低い領域で今回採用した計算式とやや大きな差が生じた。
 QL=1 / (0.5/QLp + 0.5/QLs)
上の式はQの値が充分大きいことを前提にした近似が含まれている可能性があるため、今回は過渡応答シミュレーションの結果を利用する式を採用している。

結果を負荷抵抗の高い側から見ていくことにする。

負荷抵抗無限大では全てのエネルギーが損失になり、スパークギャップがその大半を占め、次いで一次側巻き線、二次側巻き線の順になっている。

2MΩに至るまで出力の占める割合が直線的に増加し、損失については減少したものを負荷抵抗無限大の時の割合を保ったまま分配しているように見える。この間、5MΩまでは二次巻き線ピーク電圧の変化はわずかだが、2MΩになると顕著に低下し始める。

出力エネルギーのピークは0.5 MΩと0.2 MΩの中間、おそらく0.3 MΩ付近にあるようだが、0.1~1 MΩの間では出力エネルギーの占める割合の変化が比較的少なくなっている。その反面、二次巻き線ピーク電圧は直線的に低下していて、負荷抵抗0.1MΩでは負荷抵抗無限大の時の1/4近くまで減少している。したがって、二次巻き線ピーク電圧を高く保ちながら大きな出力エネルギーの得られる、負荷抵抗0.5~1MΩ辺りがテスラコイルとして最適な状態なのかもしれない。

ここで二次側共振回路のQと出力電圧の関係に注目すると、2つ面白いことが分る。

1つ目はピーク出力電圧との関係である。
二次巻き線ピーク電圧は、顕著に低下し始めるR1=2MΩの条件において173.6kVで、無負荷状態の約90%を維持しているが、QLは無負荷状態の約34%まで低下している。このことから共振回路のQは出力電圧を決定する主要な要素では無さそうである。共振回路のQはむしろ出力電圧減衰の時定数に関係していて、到達可能な最大出力電圧に及ぼすQの影響は間接的なものである。

2つ目は出力電圧波形との関係である。
Fig. 7は負荷抵抗が10MΩのモデルの結果で、この時の二次側共振回路のQLは84.9である。共振回路をバンドパスフィルターと考えた時の-3db帯域幅は、共振周波数をFとするとF/Qであり、Fig. 7の場合は約1.6kHzになる。
バンドパスフィルターに周波数Fのキャリアを周波数fの変調波でAM変調した信号を通す場合、帯域幅は2f以上必要である。したがってFig. 7の条件では変調波の周波数800Hz、すなわち振幅変化の周期1.25msを境に、それよりも周期の短い変化は起こりにくくなっているはずだ。しかしFig. 7で見られる振幅変化の周期は約35μsで、1.25msの1/30未満である。
以上は一見矛盾しているようだが、後で触れるとおり、短い周期の振幅変化は複共振回路の双峰特性で説明できる。SGTCでは過渡応答が重要であり、共振回路の小信号応答に基づく素朴な考え方は当てはまらない場合が少なくない。

なお出力エネルギーが最大になる条件では二次巻き線電圧の波形も大きく変化し、最初の膨らみの期間中に大半の共振エネルギーが負荷抵抗で消費されている。

9

Richie's Tesla Coil Web PageのReal Tesla Coil waveformsセクションに掲載されている実測写真はFig. 9の下側の波形に近く、ストリーマーにかなりエネルギーを取られる条件で測定したのだと考えられる。

 

くびれと膨らみを詳しく考える

Fig. 7では減衰の影響があるので、くびれと膨らみの状況を詳しく見るのが難しかった。減衰が無視できるように、Fig. 3から抵抗成分を全て取り除いたモデルで考えてみる。

10

Fig. 10のモデルで過渡応答シミュレーションを行った結果の一次側・二次側巻き線電圧の最初の150μsを拡大してみると、

11

包絡線が図に示したようにコサインおよびサインカーブに従っているようである。ωdの意味は後で触れるが、ここでは同じ周期のコサインとサインカーブに従っていることが重要である。

Fig. 11の見立ては、一次・二次側共振回路の電気的振動エネルギーを合計したものが、最初にC1に蓄えられていたエネルギーと常に等しくなる(エネルギー保存)と考えることに基づいている。つまり、最初C1に蓄えられていたエネルギーをE0、一次側・二次側共振回路の電気的振動エネルギーと包絡線電圧をそれぞれE1、V1、E2およびV2とすると、

12

Fig. 12は、Fig. 11の上段の包絡線を仮定すれば下段が矛盾無く導かれることを示しているに過ぎない。微分形式に書いた時間ドメインの関係式を代数的に解けば仮定に頼らなくても済むと思うが、今回のテーマは「シミュレーション」である。Fig. 10のモデルに基づきSIMetrixが同じことを数値的に解いてくれているはずなので、今回はこれでよしとしよう。

ここで興味深いのは、振動が最もくびれたところでは包絡線がゼロをまたいでいるので、その時共振回路の電気的振動エネルギーは完全にゼロになっている、と言うこと。つまり、たとえば一次側の振動が最初に最もくびれた時点で、最初C1に蓄えられていたエネルギー全てが二次側共振回路に移っている。

以上の事は、一次・二次側共振回路がそれぞれ同じ周波数に共振している場合にだけ成り立つ。Fig. 10のモデルでC1の値を変化させると、同じ周波数に共振する値より大きすぎても小さすぎても一次巻き線電圧の振動波形のくびれが不完全になり、最初C1に蓄えられたエネルギーの一部が二次側に移らずに残ってしまう状態になる。

 

周波数ドメインで考える

今までは過渡応答シミュレーションを行い時間ドメインで考えていた。これを周波数ドメインではどうなるのか、考えてみよう。この場合、小信号応答と伝達関数(SIMetrixの"Analysis mode"の"AC"と"Transfer function")を調べることになる。なお後者はインピーダンスを調べるためである。

小信号応答と伝達関数のシミュレーションにはFig. 5のモデルを使い、"Choose Analysis"ダイアログで"AC"と"Transfer function"を追加し、条件を設定する。

13

テスラコイルの共振はかなり鋭いので、"Sweep parameters"の"Points per decade"を多くしないと正しいピークの値を捉えられないおそれがある。また伝達関数では"TF"シートの"Noise parameters"欄の設定やシミュレーション結果のプロットを描かせる方法がかなりトリッキーである(後者は"Probe"メニューの"Add Curve..."を使う!)。

なお小信号応答では内部抵抗ゼロで出力電圧1Vの信号源を使っているので、各部の電圧の値がそのまま電圧ゲインを表している。

Fig. 14が結果で、下から信号源V1から見たインピーダンス、一次巻き線の電圧と電流、そして二次巻き線の電圧と電流である。

14

各電圧・電流のプロットは複共振回路の双峰特性を示している。インピーダンスのプロットを見ると、双峰特性のピークは直列共振になっていることが分る。なお4MHz付近のインピーダンス上昇は、一次巻き線の自己共振によるものである。

二次巻き線の電圧と電流のプロットを拡大し、カーソルを使って各ピークの値を読み出したのがFig. 15である。

15

ピークの低いほうの周波数をf1、高いほうをf2として、Fig. 15に示した式の通りそれらの算術平均に対応する角速度をωm、差の1/2に対応する角速度をωdとする。

カーソルから読み出した周波数に基づきFig. 16の凡例に示した式の値を計算してプロットすると、

16

縦軸方向に適宜引き伸ばせば、Fig. 11とぴったり一致するカーブが得られる。

以上が何を意味しているのか、数式で整理すると、

17

式(17.1)と(17.2)の左辺は時間ドメインで見た波形の式である。これに三角関数の公式とFig. 17の一番上に掲げたωmとωdの定義を当てはめると、各式の右辺最終形のように周波数f1とf2の信号が半分ずつ混ざった状態と表現できることを示している。これはオシロスコープでFig. 11またはFig. 16のように見える信号は、スペアナではFig. 15のように見える、と言うことだ。

ただしFig. 17の式が扱っている量は、周波数に依らずインピーダンスが一定の回路の電圧や電流のように、二乗するとエネルギーまたは電力に比例する値が得られるものである。それに対してFig. 5のモデルではf1とf2の周波数でインピーダンスが異なるため、Fig. 15の電圧および電流の値は2つのピークで明らかに異なり半分ずつ混ざっているのかどうか判別できない。しかし電圧と電流から皮相電力を計算すると12.4VAと12.7VAとなり、誤差の範囲で一致していると言える。

なお式(17.1)と(17.2)の右辺最終形でf2に関する項の符号が異なっているが、これはテスラコイルの一次側と二次側で周波数f1の成分の位相は同じだがf2の成分の位相は逆になっていることを表しているものだ。

この節で得られた最も興味深い結論は、テスラコイルの一次側と二次側の間のエネルギー交換は双峰特性のピーク間の周波数差に比例して速くなると考えられることである。しかし複共振回路では結合が強いほど双峰特性のピーク間周波数差が大きくなることが知られていて、一次・二次巻き線間の結合が強いほどエネルギー交換が速くなると言い換えることができる。後者の表現だと、直感的に当然と思える内容だ。

 

双峰特性と結合係数の関係

双峰特性が顕著ではなくなる臨界結合付近について議論した資料は多いが、今回のように顕著な双峰特性が現れる場合に関して結合係数との関係を定量的に議論している資料が見あたらなかったので、今回のテーマ「シミュレーション」からは外れるが、自分で代数的に導出してみた。

Fig. 18は、小信号応答シミュレーションを行ったFig. 3のモデルを簡略化したものである。

18

一次・二次側ともに同じ周波数に共振しているので、図示したような共鳴条件が成り立っている。

Fig. 18を、理想トランスを用いた等価回路に書き換えたのがFig. 19である。

19

この等価回路に今まで行ってきた「エネルギーの移動」に関する議論を当てはめると、最初左側のC1に蓄えられていた全てのエネルギーが右側のC1に移る瞬間が存在することになる。そのため、理想トランス一次側(左側)電圧のピーク値は最初C1に充電されていた電圧に等しく、二次側電圧のピーク値はその電圧比倍になる。以上はテスラコイル周りに抵抗成分が全く存在しないことを前提にしているので、理想的なテスラコイルが到達し得る最大出力電圧、と言うことになる。すなわち:

複共振回路になっているSGTCの出力電圧が到達し得る最大値は、一次側のコンデンサーに充電された電圧に(二次側インダクタンス÷一次側インダクタンス)の平方根を掛けた値に等しい。

唐突に興味深い結論が得られたが、本来の双峰特性の議論に戻ろう。

二次側が開放された理想トランスはあっても無くても同じなので無視し、Fig. 19の表記を扱いやすいよう整理する。

20

Fig. 20の上段の図と中段の式で、対応する部分の背景色を同じにしている。中段の式を整理して、式(20)を得る。

Fig. 14で双峰特性のピークは直列共振だったので、式(20)の分子がゼロにならなくてはいけない。

21

式(21.1)は双峰特性のピーク周波数f1とf2に対応する角速度を表したもので、ここでωnはテスラコイル一次・二次側がそれぞれ単独の場合の共振周波数に対応した角速度である。

式(21.2)と(21.3)は、ωmとωdを結合係数kとωnで表したもので、更にそれらを組み合わせてωdmをkで表したのが式(21.4)である。

様々なkの値について式(21.2)右辺の係数部分と式(21.4)右辺の値を計算した結果をFig. 22にまとめた。

22

ここでは更に、一次側の電気的振動エネルギーが最初にゼロになるまでの時間を、振動のサイクル数で計った時間ttを計算して右端に掲載している。

結合係数kとテスラコイルのQLが与えられると、時間ttの間、すなわち二次側電圧波形がピークに至るまでの間にどれだけ損失が発生して電圧が減少するか計算することができる。

23

QL=84.9はFig. 3のモデルの条件で、シミュレーション結果の二次巻き線ピーク電圧は189.4kVだった。このモデルから抵抗を取り除き、理想的なテスラコイルにしたモデルがFig. 10で、この時の二次巻き線ピーク電圧が208kV、減少率はFig. 23から9.1%なので、これらから期待される二次巻き線ピーク電圧は189kVであり、Fig. 3のモデルのシミュレーション結果と良く一致している。

なお、Fig. 10のモデルのシミュレーションで得られた二次巻き線ピーク電圧208kVは、Fig. 19の等価回路から予想される値と一致している。

 

虫のいい話

Richie's Tesla Coil Web Page の Tesla coil operation (part 2) セクション冒頭に「一次側の電圧・電流が最初にくびれたところでスパークを止められるのが最も望ましいが、実際には難しい。」と書かれている。

Fig. 3のモデルによるシミュレーションなら、スイッチを制御している波形のタイミングでどうにでもなるので、どの程度効果があるのか試してみた。

24

二次巻き線ピーク電圧が無負荷状態から減衰し始める直前のR1=5MΩの条件で、右端に示したpw=∞がシミュレーションの終わりまでS1を閉じていたケース、pw=16.4μsが一次側の電圧・電流が最初にくびれたタイミングでS1を開放したケースである。

R1=5MΩだとFig. 8に示したQLsとQLがあまり違わないので、さほど効果は無いのではないかと予想したが、見事に外れたようだ。

pw=16.4μsのケースはpw=∞に比べ、(1) 出力であるEr1が倍増、(2) 一次側の損失であるEr2とEr4が激減、そして(3) Er1につられてEr3も倍増しているが元々値が小さいので大勢に影響無し、と言う結果になった。

しかし、実現は難しそうである。

25

S1を開放するタイミングに数十nsオーダーのずれがあったようで、L1に未だ残っていたエネルギーがS1解放後L1の自己共振周波数で振動を始め、かなり高い電圧に達している。これはL1の自己共振周波数がテスラコイルの共振周波数よりも30倍以上高く、それに応じて回路のインピーダンスが高くなっているためである。

仮にS1を開放した時に最初にC1に蓄積されていた電気エネルギーの1%がL1に残っていたとすると、インピーダンスが同じでもC1に充電された電圧の10%の振動電圧に達する。回路のインピーダンスが30倍だったとすると、最初に充電されていた電圧の3倍になるわけだ。Fig. 25ではここまで酷くないが、シミュレーションだからできていることであって、現実のスパークギャップだとスパーク毎のバラつきなどで容易にこのような状態になるのではないだろうか。固定式スパークギャップではスパークを止められる状態だとは思えない。RSGならスパークを止められる場合があるかもしれないが、今度はC1を充電した3倍の電圧にNSTなどが耐えられるかどうか、問題になるだろう。

 

今回のまとめ

SGTCのSPICEシミュレーションを行うことで、以下のことが分った。

  • SGTCは複同調回路のステップ応答を示す 
  • 二次巻き線電圧の到達可能な最大値は、一次側のコンデンサーに充電された電圧と、インダクタンスの比の平方根の積である 
  • 現実のテスラコイルでは、損失により前項の最大値よりも小さな値となる 
  • 結合係数が小さいほど、またQが小さいほど、損失による減少率が大きくなる 
  • 二次巻き線単独のQを議論しても無意味で、一次巻き線の影響を考慮する必要がある 
  • Qの小さい方の影響が支配的で、通常一次巻き線のQの方が小さい(全体のQは、小さい方の2倍以上にはならない) 
  • コンデンサーの充電電圧、テスラコイルのインダクタンス比とQ、および結合係数が分れば、ピーク出力電圧を計算可能である

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