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2012年10月 2日 (火)

テスラコイルとトランスの等価回路

テスラコイルがどんなもので、どのように働くのかについて以前から概略理解しているつもりだったが、最近もっと詳しく理解したいと思うようになるようなきっかけがあったので、定石に従い文献調査と実験を行った。
文献調査はインターネットでアクセスできる範囲、実験は回路シミュレーターで行い、当初の期待を裏切らない程度の成果があったので、これらの結果を別の記事にしようと思っている。ただし若干気懸かりな事がある。

後年何らかの経緯から「コイル」と呼ばれるようになったらしいが、ニコラ・テスラ本人が ”oscillation transformer” と呼んだように、テスラコイルの実態はトランスである。文献調査の一環としてトランスの等価回路を探したところ、テスラコイルに好適なものがネオテス株式会社のホームページで見つかった。同社代表取締役の牛嶋昌和が提唱しているものだ。

気懸かりなのは、私が探した範囲の他のWebサイトで牛嶋が提唱している等価回路と全く同じ内容に言及しているものは見当たらなかったこと、そして基礎的な法則などから「牛嶋の等価回路」を導出する過程が示されているのも見つからなかったことである。もしかしたら、トランスに詳しい人々にとってあまりに明白な常識で、いまさらとりあげるまでも無い、と言う事情があるのかもしれない。しかし、不安のある等価回路に立脚した議論を記事にするのも精神衛生上良くないので、備忘録をかねて、私なりに導出する過程を記事にしておこうと思う。

備考:
この記事を書いた時点の日本語版Wikipediaに「牛嶋の等価回路」に沿った内容が何項目かあるが、これらは牛嶋本人により投稿・編集されたものだと思われる。

/*******  *******/

代表的なトランスの等価回路2種類

先ず断っておくが、通常は銅損や鉄損による抵抗成分や寄生容量によるキャパシタンスを含める場合も多いが、今回はそれらの影響を考えることが目的ではないので、一切省略している。得られた結果に対して後から追加して考えるのは比較的容易だと思う。

最初の等価回路は、通常のトランスがどのように造られているかを念頭に置き工学的リアリティ最優先で、漏洩磁束によるインダクタンスと励磁電流を流すインダクタンスを理想トランスに付加したものである。
Fig1
一見すると「牛嶋の等価回路」も同じように見える。しかし、この形式の等価回路が示された場合、理想トランスに付加されたインダクタンスの理論的な値やそれらの相互関係が議論されているのは牛嶋の場合を除き見あたらなかった。私の個人的印象だが、早く理想トランスになりたいという妖怪人間のような想いがこの等価回路から感じられる。ただし、付加されたインダクタンスを柔軟に理想トランスの一次・二次側に再配置可能で、実験結果の解釈などに利用するのには非常に魅力的である。

2番目は、電磁気学で標準的と思われるT型等価回路である。
Fig2
これは自己インダクタンスと相互インダクタンスの定義、および相反定理だけを使って導くことができ、論理が堅牢だと言えるだろう。ただし、トランスの持つインダクタンスを表すのと変圧作用を実現することが混在していて、変成比が1から離れていると負のインダクタンスを考えなくてはならない場合がある。これだと計算は出来るが、その結果を直感的に理解できるよう説明するのが難しい。

最初の等価回路と2番目の等価回路の関係性を確かめることで、「牛嶋の等価回路」を検証するのがこの記事の目的である。

備考:
2番目の等価回路は一次側と二次側のコールド側電位が同一に固定されるのでトランスではない、と言う指摘がありえると思う。これは、変成比1:1の理想トランスを等価回路のどこかに入れることで回避できる。


2番目の等価回路を導く

教科書的内容だが、復習しておく。2つのインダクタンスの間に相互インダクタンスが存在するモデルを考え、便宜上、左を一次側、右を二次側と呼ぶ。
Fig3
式(3.1)と(3.2)は、自己インダクタンスと相互インダクタンスの定義そのものである。ここで相反定理により、一次側と二次側の間の相互インダクタンスは作用の方向に関わらず同じ値を取ることが求められるので、両方ともMと表記すことにする。

式(3.1)と(3.2)を足し合わせると、Fig. 3のモデルの一般的な式(3.3)が得られる。式(3.3)は時間ドメイン(Time Domain)の表現になっているが、これ以降の取り扱いに都合が良いよう周波数ドメイン(Frequency Domain)の表現に書き直す。
Eq4

これ以降、等価回路の導出と二次電流を式(7.3)の表現に計算するところまで、米子高専の資料(パワーポイントファイル)を参考にした。

式(4.1)では電流と電圧4項目の内2つが独立変数であり、どれか2項目を決めることにより残りの2項目が一意に求まる。後で一次側電圧から二次側の電流を求めるため、二次側の端子より内側に負荷抵抗を追加し、二次側を短絡することで独立変数を減らして1つにしている。
Fig5

備考:
等価回路の導出に負荷抵抗の追加は不要だが、引き続き二次電流の計算を行う際に結果を使いまわすため、ここで負荷抵抗を追加する。また、二次側の端子外側に負荷抵抗を追加したと考え、E2=I2R2としても独立変数を減らして1つに出来るが、ここでは米子高専の方法に従った。

Fig6
式(5.1)に互いに相殺するような項(マゼンタとシアン)を追加して式(6.1)を得る。これを整理して式(6.2)となり、等価回路2に対応する表現形式が得られる。
Fig. 6の下段の図にZ1~3と記入しているのは、次に二次電流を計算する際に利用するインピーダンスに対応する部分を示したものである。


二次電流の計算

Fig. 5の一次側に、交流電圧E1を加えた場合の二次電流I2を計算する。

Fig. 6のピンク、水色、およびオレンジでハイライトした部分のインピーダンスをそれぞれZ1、Z2、およびZ3とすると、式(7.1)および(7.2)の通りになり、これを代入・整理して式(7.3)が得られる。(ここまで米子高専の資料を参考にした)
Eq7

相互インダクタンスMは、一次・二次側の自己インダクタンスと結合係数kで表せることが判っているので、その関係を適用して式(7.4)を得る。これが「等価回路2」に基づいて、一次側の電圧と二次側の電流の関係を計算したものである。この関係が同じになれば、「等価回路2」と表現の異なる等価回路であってもFig. 3のモデルを正しく表していると言えるはずだ。また抵抗R2の両端の電圧はI2R2で計算でき、これはFig. 3のトランスモデルの二次側を負荷抵抗R2で受けた場合の出力電圧である。

備考:
上記の通り予備知識に基づき結合係数kを導入しているが、仮に代数的な美意識から導入したとしても、それなりの必然性があると言えそうだ。

Eq8
式(8.1)の通り、k=1、すなわちM2=L1L2の時に一次側電圧と二次側電流の関係に周波数依存性が無くなる。そのためM2またはMを、L1L2またはその平方根に係数を掛けたもので表そうとするのは、自然な成り行きではないかと思える。


巻き数不明の場合の変成比

私の理解が正しければ、トランスの巻き数の比率を変成比aと言ったはずである。結合係数k=1なら、変成比は一次側と二次側の電圧の比に等しい。これは鉄芯を使い閉じた磁気回路を持つトランスで成り立つが、テスラコイルのように空芯トランスで一次側と二次側のコイルの直径が異なる場合にも成り立つのだろうか。

実際困ったことに、Fig. 3のモデルには「巻き数」の概念が無い。ここでは一次・二次側の自己インダクタンスだけが判っているトランスの変成比について考える。

備考:
代表的空芯コイルである単層ソレノイドでは、巻き数とコイルの長さが一定だと自己インダクタンスは概ねコイルの直径の二乗に比例する。

Fig. 3のモデルで二次側開放時の電圧比を計算してみよう。

Eq9

式(9.3)から、変成比は自己インダクタンス比の平方根と表せることが判る。

備考:
閉じた磁気回路(鉄芯)に巻かれたコイルのインダクタンスは巻き数の二乗に比例することが知られているので、巻き数の比が変成比であると言う事と上の結論は矛盾しない。ただし、上の結論は閉じた磁気回路の存在など特定の前提を必要としないので、より一般的な表現だと言えるだろう。


理想トランスを使って変換する

いよいよ本題である。

負荷抵抗のあるFig. 5のモデルで、実はL2とR2の間に理想トランスが入っていたと考える。
Fig10
Fig. 10の上段は、二次側の自己インダクタンスがL2だと思っていたのは、実は理想トランスの一次側に接続されたL1がインピーダンス変換作用でそう見えていた、と言うことを示している。相互インダクタンスについて同じようにインピーダンス変換作用を適用できることが自明では無さそうなので、結合係数kを維持すれば等価性が保てることを仮説とし、これを検証することとした。なお添え字に加えた小文字のpは、理想トランスによる変換で元の対応する項目と異なる値になると考えられるものに付けた。ただしL2p=L1なので、いきなりL1と表記している。
Fig. 10の下段は、理想トランスの二次側にあったもの全てを一次側に移し、理想トランス自体消去してしまったものである。元々二次側にあった項目の、元の値との関係はFig. 10の最下段に示すとおりだ。

Fig. 10下段を、Fig. 2の「等価回路2」の表現に書き直す。
Fig11
Fig. 11を用いてI2を計算する。先ず、I2pを計算し、
Eq12
それをI2に換算する。
Eq13

Eq. 13最下段の式は式(7.4)と等しく、無事仮説が検証されたことになる。

したがって、Fig. 14の等価回路はFig. 2と等価であり、Fig. 3でモデル化したトランスの正しい等価回路であることが検証できた。
Fig14
Fig. 14の右側の(1-k)L1を理想トランスの二次側に移せば、Fig. 1の「等価回路1」に対応した表現になる。
Fig15

私が「牛嶋の等価回路」と呼んでいるのは、Fig. 14とFig. 15に加え、Fig. 15で理想トランスの一次側に並列に入っているkL1を二次側に移してkL2とした形式、さらにこの状態で一次側に直列に残った(1-k)L1も二次側に移して(1-k)L2とした形式の、合計4形式である。これら全てが等価であることについて、特に説明の必要は無いと思う。


今回のまとめ

インダクタンスの定義から出発して「牛嶋の等価回路」が導けたのは良かった。「牛嶋の等価回路」は直感的に正しいと感じられるので間違いないだろうと思う一方、余りにも直感通りなのでかえって何か重要なことを見落としているのではないかと不安になったのも事実である。

理想トランスに電圧、電流、およびインピーダンスの変換機能を任せることで、トランスそのもののインピーダンスだけではなく外部に接続されるインピーダンスも一次・二次側に柔軟に再配置できるのはありがたい。また、等価回路に現れる値の物理的意味合いが判りやすく、シミュレーション結果などを直感的に判るよう説明するのに有効なツールになると思う。

今回インターネットで文献調査していて、「牛嶋の等価回路」にかなり近い内容まで言及している資料をいくつか見かけた。しかし重要な要素、たとえばT型の等価回路になる場合、値が(1-k)LとkLの2種類のインダクタンスで左右対称に構成されること、などに言及しているものは牛嶋によるもの以外見つからなかったし、定義や法則・定理などから導出しているのはまったく見つかっていない。インターネットからはアクセスできない文献にそのものズバリの内容があるのかもしれないが、とりあえず自力で導けたようなので、もしそうだとしてもそれはかまわない。

単純なミスや思い違いはあるかもしれない。高校レベルの物理と代数だと思うので間違いがあるのはマズイが、間違いを放置するほうがもっとマズイので、お気づきの方が居たらコメントをいただけるとありがたい。

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