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2012年11月12日 (月)

テスラコイルは分布定数回路

前回の記事では、SGTC(Spark Gap Tesla Coil:スパークギャップを使った伝統的なテスラコイル)の集中定数モデルについて、SPCEシミュレーションなどを使って動作を調べ、ある程度納得できる結果が得られたと思う。しかし「テスラコイルの二次巻き線は分布定数回路として扱うべきだ」と指摘しているWebサイトがいくつかある。

私が覚えている範囲では、classictesla のFile Repository ドキュメント(PDF) 牛嶋昌和のブログの記事でそのような指摘がされていたが、探せばもっとあるかもしれない。また前回記事でモデルにしたテスラコイルのインダクタンスなどを求めるのに使った RF Inductance Calculatorの説明文に「現実のコイルを最も良く表しているのは、らせん状の導体に沿って電磁波が進むとみなすことである」と記載されている。

そこで今回は、前回モデルの二次巻き線を伝送線路に置き換えたモデルを使い、どのような違いがあるのか調べてみた。

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等価回路

前回モデルのL2、R2およびC3がテスラコイルの二次巻き線に相当する部分である。
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これを伝送線路に置き換えるとL1との結合を設定できないので、SPICEの機能を使って相互インダクタンスを別途実現してみた。

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Fig. 1とFig. 2の小信号応答を比べると、設定値の有効数字から来る誤差の範囲程度で一致しているので、これらの回路は等価であることが確認できたと思う。なおFig. 2のR6とR7は本来必要の無い抵抗だが、これがないとシミュレーションができないため、動作に影響の無い高い値の抵抗を追加したものである。

Fig. 2のL2とC3を伝送線路に置き換えても等価とするには、R2との接続部分から見たL2側のインピーダンスを等しくすれば良いはずである。
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インピーダンスを考える場合、周波数を指定する必要があり、ここではFig. 2のL2と(C3+C4)の共振周波数である140.3kHzを用いた。

Fig. 3の要件を満たす値を代数的に求めるのは少しタイヘンそうだったので、数値的解としてZC=75.8kΩおよびtanβl=1.497を求め、更に伝送線路の遅延時間Td=1.114μsを得た。この値を使って、Fig. 2の二次巻き線を伝送線路に置き換えた。
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Fig. 2のR2はコイルの等価巻き線抵抗なので、伝送線路全体に均等に割り振るよう、等価直列抵抗を指定できる「Lossy Trans. Line(損失のある伝送線路)」を用いた。

Fig. 2(集中定数)とFig. 4(伝送線路)について、100~200kHzの間のH2の負荷インピーダンスを計算して比べてみた。

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虚数部分(リアクタンス)はかなり良く一致しているが、実数部分に乖離が見られるので、これによる結果の差異が予想される。

Fig. 2とFig. 4は相互インダクタンスの定義通りにモデルを組み立てたので論理的な背景がしっかりしていると思う。しかし小信号応答シミュレーションはできるが過渡応答はできない問題がある。H1~H4が強いフィードバックを形成しているため、数値積分の刻みを限界まで小さくしても結果が収束しないようだ。そのため理論的な妥当性に若干不安があるが、過渡応答シミュレーションのできる理想トランスを使ったモデルを考えた。
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トランスとは別に巻き線インダクタンスを設定しているので、トランスの巻き線インダクタンスは充分大きな値(1H)にしている。
小信号応答を見ると、Fig. 6はFig. 1およびFig. 2と誤差の範囲で一致する。Fig. 7とFig. 4の140kHz付近の小信号応答はとほとんど同じであり、Fig. 6と比べると意図したよりも結合係数がわずかに大きいようなカーブを示している。Fig. 7とFig. 4で意図したよりも結合係数がわずかに大きいような結果が得られたのはFig. 5に見られたインピーダンスの実数部分の差異と対応したものなのかもしれないが、確証は無い。

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140kHz付近の小信号応答は集中定数モデルとほとんど同じだったが、200kHz以上の領域で大きな違いが出ている。

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分布定数回路(Fig. 4およびFig. 7)のモデルでは500kHzよりも高い周波数領域に複数のピークが見られ、これらは集中定数回路(Fig. 1、Fig. 2およびFig. 6)のモデルには無かったものだ。Fig. 6の集中定数による等価回路は、最も低い自己共振周波数よりも高い周波数領域のコイルの振る舞いを正しく反映できないためである。

Fig. 4でH2の出力インピーダンスおよびH4の入力インピーダンスはどちらもゼロで、Fig. 7ではT1の左端は短絡されているので、どちらも一端が短絡された伝送線路という事になる。一端が短絡・他端開放の伝送線路は、長さが1/4波長またはその奇数倍に相当する周波数で共振することが知られているが、今回のモデルでは開放端にトーラスの静電容量10pFが接続された形なので、共振周波数が低くなる。

Fig. 4およびFig. 7の伝送線路全体の遅延時間(長さ)は1.114μsで、これは二次側回路単独の共振周波数約140kHzでは0.156波長に相当する。このように1/4波長よりも短い一端が短絡された伝送線路を開放端から見込むと誘導性リアクタンスを示し、それが10pFと共振回路を形成するのである。以上がFig. 10の最下段の状態だ。

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140kHzよりも高いピーク周波数では伝送線路上に定在波の電圧最小点が生じ、誘導性リアクタンスに対応するのは一番右側の電圧最小点よりもさらに右側の部分だけだ。10pFの容量性リアクタンスは周波数に反比例して小さくなるため、ピークの周波数が高くなるほど誘導性リアクタンスに寄与する部分の長さは短くなる。そのためピークの次数と周波数をプロットしても直線から外れるが、次数が高くなるほど乖離が小さくなるはずである。

テスラコイルの二次巻き線であることを念頭にFig. 10を眺めると、信号に523kHzや963Hzの成分が混ざっていると、上端ではなく中腹よりも低い位置に電圧最大点が生じ、少し厄介なことになりそうである。これは英語で「Racing Sparks」日本語では「トラッキング」と呼ばれる現象(二次巻き線下部の表面で放電が起こり、絶縁被覆が破損する)に関連している可能性が考えられる。

なおFig. 4とFig. 7では1.5MHzよりも高い周波数領域の応答に差がある。そのためFig. 7のモデルからなにか興味深い結果が得られたとしても、もしそれが1.5MHzよりも高い周波数領域に関するものなら慎重に扱う必要がある。

 

小信号応答による他事例との比較

小信号応答は定常状態を前提としているので、場合によっては100μs以下で勝負がついてしまうSGTCでは参考にならないことも少なくないが、他の事例との対応関係で見ていくことにする。

Fig. 4のモデルのシミュレーション結果について、信号源から見たインピーダンスを加え、周波数の関係が見易いよう横軸を線形目盛りにした。

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インピーダンスの変化は、牛嶋のブログの記事で紹介されたインピーダンス計測結果と定性的に同じだと言えるだろう。従って現実のテスラコイルは伝送線路であると考えて良さそうである。またRF Inductance Calculatorの説明文を思い出すと、これはテスラコイルに限ったことではなく、コイル全般に言える事と考えるべきなのかもしれない。

 

小信号応答のまとめ

実はFig. 5の周波数範囲を広げると、Fig. 11とほぼ同じ結果が得られていたことが分る。

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Fig. 12では並列共振点と直列共振点が等間隔に並んでいるが、Fig. 11では近接している。これはFig. 11は一次巻き線側から見ているが、Fig. 12は直接二次巻き線を見ていることによる差異だ。

Fig. 12のカーブを見比べると、200kHz以下の周波数領域では集中定数回路と分布定数回路のもでるどちらでも、得られる結果に大きな差は無いのではないかと思える。ただしそれ以上の周波数領域では、今まで見てきたように得られる結果は全く違っている。

ここまでの議論をまとめると、Fig. 4およびFig. 7のモデルは140kHz付近の挙動についてFig. 1のモデルとほぼ等価であり、同時に分布定数回路の特徴を兼ね備えていると言えるだろう。

 

分布定数回路の過渡応答

比較対照用にFig. 6のモデルを過渡応答用に修正した。

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またFig. 7のモデルを過渡応答用に修正したのがFig. 14である。

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それぞれの過渡応答シミュレーション結果がFig. 15とFig. 16である。

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プロットを見ただけでは違いが分りにくいと思う。SIMetrixの測定機能を使うと二次巻き線電圧Vsのピーク値が189kVから207kVに、分布定数モデルの方が10%高い結果になっているのが分るが、有意差と言えるのかどうか微妙なところである。

比較しやすいようFig. 15とFig. 16の同じ項目を重ねて、時間軸を拡大表示してみた。先ず一次巻き線関係。

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分布定数回路モデル(Fig. 14)の方が包絡線の周期が短いが、Fig. 5に現れた結合係数の違いによるものだろう。それ以外で大きな違いは無い。しかし、二次巻き線関係ではかなりの違いが出ている。

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項目ごとに程度の違いはあるが、分布定数回路モデルでは高い周波数の成分を表すギザギザが含まれていることが目を引く。特に中間部分の電圧Vs2で顕著で、一次電圧の立ち上がり部分を時間微分して得られるインパルスが伝送線路の両端で反射を繰り返していると考えられる波形を示している。

中間部分電圧Vs2のピーク値は、インパルスが重畳したことで38kVから60kVに増加している。トラッキングという現象を理解するには、テスラコイルを分布定数回路として扱う必要があると考えて間違い無さそうだ。また先に触れた二次巻き線電圧Vsが10%高くなっているのもインパルスの寄与かもしれない。

インパルスが加わったことによる二次巻き線電圧Vsの波形変化はさほど大きくないが、Richie's Tesla Coil Web PageのReal Tesla Coil waveformsセクションの終わりのほうで「波形がすごく歪んでいる」と書かれている現象は、このことが原因で起こっているのかもしれない。

他に波形を見て気付くのは、Fig. 18でVsおよびIsが立ち上がるタイミングが伝送線路の遅延時間分遅れていることである。これとインパルスが重畳していることはコイルを伝送線路で表したことによる本質的な差異だが、それ以外については誤差の範囲と言えるのではないだろうか。

 

「動作原理は定在波」と言う指摘

「テスラコイルの二次巻き線は分布定数回路として扱うべきだ」と指摘するのとセットになっているのが「従って、テスラコイルの昇圧原理は進行波と反射波の干渉による定在波である」とか、さらに踏み込んで「昇圧比はVSWRで決まる」と指摘することである。元々はニコラ・テスラ本人がそういった趣旨の記述を残しているようなので尊重すべきなのかもしれないが、SGTCとの関連で考えると、これには少なからず違和感がある。

本題に入る前に、先ず定在波とVSWRについておさらいしてみよう。どちらも文字通り、定常状態に関する概念なので、系(システム)が定常状態になっていないと意味を成さない。
教科書的な説明では「負荷側の・・・」と一言断ることで負荷側の反射だけに注目しているが、現実の系を考えると、信号源では反射が起こらない前提に立脚していることになる。

Fig_19_2

こうすると説明が簡素になるだけでなく、反射波が信号源まで戻った瞬間に定常状態が達成され、さらに伝送線路の長さを気にする必要が無いので好都合なのである。

定常状態では、電圧振幅1の進行波と電圧振幅Γの反射波だけを考えればよいので、

Fig_20_2

最大振幅が発生する位置では進行波と反射波が加算されて振幅が1+|Γ|となり、最小振幅になる位置では相殺するので振幅が1-|Γ|になるので、VSWR=(1+|Γ|)/(1-|Γ|)と表すことができる。

以上の条件だと、最大振幅は信号源から供給されている電圧の2倍を超えない。この条件で2を超え無限大まで達するVSWRが生じるのは、最小振幅の絶対値がいくらでも小さくなり得るからである。

しかしテスラコイルの二次巻き線では、教科書とは異なる条件で動いている。

  • 信号源インピーダンスはほとんどゼロ、すなわち信号源側の反射係数は-1と考えなくてはならない
  • ストリーマー(トーラス部分からの放電)が発生するまでは、負荷インピーダンスは非常に大きく、負荷側の反射係数は1とみなすことができる
  • 伝送線路の電気的長さが1/4波長になっている

Fig_21

この条件なら最大振幅が次第に育って、高い昇圧比が得られそうである。しかしその反面、定常状態にはなかなか到達しない。

両端で反射のある伝送線路が定常状態になるには、タテマエ的には無限の時間がかかる。そこまで極端な話でなくても、最大振幅部分の電圧は信号の1サイクルの期間で供給電圧の4倍ずつしか増えないため、充分な昇圧比、例えば20倍になるために5サイクル分の時間が必要である。しかも、この間継続して信号が供給されていることが前提となっているが、これは今まで見てきたSGTCとはかけ離れた状況である。SSTC(Solid State Tesla Coil:半導体インバーターで駆動するテスラコイル)ならちょうど当てはまりそうだが、これはまた別の機会に触れることにしよう。

 

SPICEモデルで定在波説を調べる

今回使ったテスラコイル二次側のモデルで定在波説を再現するとどうなるか、やってみた。伝送線路を使ったモデルと集中定数回路のモデル両方について過渡応答シミュレーションを行っている。

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議論をシンプルにするため、ここではどちらのモデルも負荷抵抗以外の抵抗成分を取り除いて無損失としている。また信号源の周波数はそれぞれのモデルの仕上がり共振周波数に合わせているため若干異なっている。

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過渡応答シミュレーションを行った期間2msは信号の 280サイクルに相当するので、定常状態との差はほとんど無いとみなして良いだろう。信号源電圧1Vなので出力電圧値がそのまま昇圧比であり、150を超える非常に高い値を示しているが、この水準に達するのに1ms前後の時間がかかっている。またFig. 5に示したように、Fig. 22のモデルはどちらも信号源から見た入力インピーダンスが約0.4kΩになっているはずなのだが、これについても定常状態に近づかないと達成されないことが電流値の変化から分る。なお伝送線路と集中定数回路の結果に若干の差異があるが、この程度なら誤差の範囲で一致していると言えるだろう。

Fig. 22の伝送線路モデルの負荷側VSWRを計算すると約190であるのに対し、集中定数モデルの共振回路のQは約158である。そのためどちらのモデルの結果も、昇圧比がVSWRに一致するのではなく、共振回路では電圧がQ倍になることを示していると考えるべきだろう。

また別の見方として、LマッチもQマッチも同等のインピーダンス変換を行えることを示したに過ぎないと考えることもできる。

しかしながら、高い昇圧比を示すのに1msもかかるのではSGTCの動作とかけ離れていると切り捨ててよいのだろうか。SGTCの二次巻き線電圧が最大値を示すのに要する時間内で充分な昇圧比が得られていれば問題ないのかもしれない。

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Fig. 14のモデルの二次巻き線電圧が最大値約200kVを示すタイミング(28μs付近)の、Fig. 22のVoutD およびVoutLの振幅はせいぜい8Vである。出発した電圧がFig. 14は10kVでFig. 22では1Vだったことを考慮しても、昇圧比はFig. 14の方が2.5倍高く、この差異は共振回路のQ(またはVSWR)による昇圧では説明できない。残念ながらSGTCに関しては、昇圧の原理を共振回路のQやVSWRだけに求めるのは無理だと言わざるを得ないようである。

 

コイルの物理的実態との対応関係

今回は集中定数モデルの二次巻き線を伝送線路に置き換えたとき、どのような違いがあるかを調べるのが目的である。そのためFig. 3で示したように、合わせられる条件を合わせた上で比較を行った。そして140kHz付近の動作についてほとんど違わない結果が得られた。そのため、ここでは更に、伝送線路を使った分布定数モデルが現実のコイルの振る舞いをどの程度正確に表しているのか、考えてみる。

RF Inductance Calculatorは現実のコイルの物理的実態を最も良く反映していると主張しているが、残念ながらそのことを確認する手段が無い。さりとて他に替わるものも無いので、仮説として主張を受け入れて議論を進めることにしよう。

RF Inductance Calculatorはコイルの指定した設計周波数における等価回路として、前回集中定数モデルを作るときに使った直列のLRに並列にCを加えた伝統的な集中定数による値の他、直列のLRだけによる等価値を計算してくれる。更に中間結果の一部として、設計周波数で等価となる伝送線路の位相定数βと特性インピーダンスZCも表示してくれている。

私の理解が正しければ、RF Inductance Calculatorでは概念的に以下のステップにより計算を進めているはずだ。

  • "n=0 sheath helix waveguide mode"に基づき、指定された設計周波数でコイルと等価となる伝送線路のβとZCを求める
  • β、ZCおよび伝送線路の長さ(コイルの軸方向の長さ)から、コイルのインピーダンスを計算する
  • インピーダンスから直列のLRだけによる等価回路を計算する
  • シート状の均一な電流モデルにより計算された低い周波数でのコイルのインダクタンスを使い、直列のLRに並列のCを加えた等価回路を計算する

今回使った集中定数による二次巻き線のモデルとFig. 3の考え方でそれと等価になる伝送線路について、直列のLRだけによる等価回路に相当するインダクタンスが計算できる。

25_2

Fig. 3の条件には、140.3kHzにおいてFig. 25のインピーダンスが一致することが必要条件として含まれているので、等価インダクタンスについても上記のとおりになるが、それ以外の周波数では異なる値を示す。ここではその周波数変化を、RF Inductance Calculatorで様々な設計周波数について計算したLeff,sと比較することにした。

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下段にはさらに、RF Inductance Calculatorが表示した等価となる伝送線路の特性インピーダンスZCと、位相定数βから計算した伝送線路の遅延時間Tdをプロットしている。

前回の記事

コイルのインダクタンスなどはRF Inductance Calculatorを利用して、Design frequency = 120kHzで求めた。シミュレーションモデルの共振周波数は約140kHzで若干異なるが、差は大きくないのでこの値を使っている。

と書いたようにFig. 26の「集中定数...」(赤)と「Leff,s@...」(青)のプロットは120kHzで一致している。また上で「差は大きくない」と書いているのは「周波数の差は大きくない」と言う趣旨であって、こうやってプロットしてみると140kHzでの等価インダクタンスの差は思っていたよりもやや大きくちょっと微妙だが、130kHz以下ではかなり良い一致を示している。

「伝送線路...」(緑)のプロットはFig. 3に示したとおり140.3kHzで条件を合わせているので、「集中定数...」(赤)と140kHzでほぼ一致しているが、それ以下の周波数で等価インダクタンスの差が次第に大きくなっている。ただし最も低い周波数10kHzでも差は20%以下で、130kHz以下の周波数に関して他のカーブとそんなに大きな差は無いと言ってかまわないと思う。

140kHz以上では「Leff,s@...」と他の2つの差が大きい。これは、「Leff,s@...」のプロットが物理的実態に沿っているのだから正しい自己共振周波数は172kHzであり、集中定数による等価回路から予想される自己共振周波数210kHzよりも随分低いためである。さらにこれはコイルと等価な伝送線路の遅延時間が、周波数が高くなるほど増えている、すなわち速度係数は小さくなっていることによるものだ。RF Inductance Calculatorが前提としている"n=0 sheath helix waveguide mode"は文字通り導波管なので、周波数により速度係数が変わって当然、と言うことらしい。通常同軸ケーブルや平行フィーダーでは周波数に依らず速度係数は一定だが、導波管では伝送モードが異なるので速度係数が周波数により変わる、すなわち分散があるのだ。なおRF Inductance Calculatorはコイルの自己共振周波数を計算して表示する機能があるが、今回のコイルの条件ではエラーが発生して表示されなかった。

今回シミュレーションを行った分布定数モデルに用いた伝送線路は、周波数に依らず遅延時間が一定のものである。そのため分散のある伝送線路を、広い周波数範囲にわたって正確に表せてはいないことは明らかである。しかし周波数に対する伝送線路の遅延時間変化が自己共振周波数付近も含め滑らかなので、狭い周波数範囲についてその中心周波数の値を用いて行ったシミュレーションの結果にはあまり大きな誤差は無さそうである。また定性的な結果、例えば数百kHzよりも高い周波数に小信号応答のピークが複数あることは間違っていないが、定量的な結果、例えばピークの周波数や強度が違っていると考えるべきだろう。

しかしながらRF Inductance Calculatorで設計周波数140kHzについて計算した特性インピーダンス(57.9kΩ)と遅延時間(1.362μs)は、今回シミュレーションに用いた伝送線路の値(75.8kΩと1.114μs)との隔たりが大きい。今回用いた集中定数による等価回路が設計周波数120kHzでRF Inductance Calculatorにより計算されていることも違いの一因だが、設計周波数を140kHzにして再計算した結果(71.5mH+9.27pF)に基づきFig. 3の条件を修正(CD=10→8.73pF)して得られた値(72.1kΩと1.208μs)と比べても依然として少なからず隔たりがある。このことは集中定数による等価回路を出発点にしたことを見直す必要があるかもしれない。そうなると相互インダクタンスとしてどのような値を取るべきかなど、考えなければならないことが多いので、今回はここで区切りとしたい。

 

今回のまとめ

集中定数回路によるモデルと同じインピーダンス変換を行うよう条件を合わせた伝送線路を用いた分布定数モデルにより、以下の結果を得た。

  • 集中定数モデルで生じる共振点以外に、それよりも高い周波数の共振点が複数あることが、小信号応答などにより確認できた
  • 高い周波数の共振点に対応した周波数の成分が二次巻き線に発生することが確認でき、これがトラッキングの発生に影響している可能性が考えられる
  • 集中定数モデルの共振点付近の小信号応答、および過渡応答の基本周波数成分に相当する部分がほとんど違わないことが分った
  • SGTCの昇圧原理をVSWR(または共振回路のQ)だけに求めるのには無理があることが分った

しかしながら今回用いた伝送線路の特性インピーダンスと遅延時間をRF Inductance Calculatorで求めた値と比べると、低い周波数におけるインダクタンスに基づく集中定数による等価回路を出発点に用いることに対して疑問が生じた。ただしこの事を加味しても、上記を含め今までの結論に大きな変更は生じない見通しである。

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