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2013年5月 4日 (土)

円安と株高

しばらく前の話だ。ニュースか何かで海外投資家には日本の株式は割安に映ると言っているのを聞いて、「円安になっているからねぇ」と、何気なく思った。

Fig1

いや、それは違う。「割安」と言うのは、それほど遠くない将来\700で売れそうなものが今は\500で買える、みたいな話だ。\500支払うのに数ヶ月前なら$6では足りなかったのが今なら$5ちょっとで済む、と言う話ではない。株のことはほとんど何も知らない私でも、これには直ぐ気付いた。

ただこれだけ円安が進んでいるのだから、急上昇している株価も米ドル換算するとたいしたことはないのかもしれない。

工学では同じ単位(正確には「同じ次元の単位」)の数値同士の比である「無次元数」を、システムの特性を表す値として使うことがよくある。例えば、増幅器の入力値と出力値は時間とともに様々に変わるが、その比(ゲイン)はほとんど一定である。しかし完全には一定ではなく、入力や出力の水準とともに変わったり(非直線性)、温度(温度係数)や時間(ドリフト)とともに変わったりする。同じことを日米の株価に当てはめたらどうなるか、試してみた。

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情報源

前掲グラフのデーターは以下のサイトから引用している。
日経平均株価:
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Stock/9256/data.html
円/ドルレート:http://www.stat-search.boj.or.jp/index.html

前者は日次の終値、後者は「東京市場 ドル・円 スポット 17時時点」を参照した。また次のグラフでは、対照としてNASDAQの数字を以下のサイトから引用した。これも日次の終値である。
NASDAQ:
http://finance.yahoo.com/q/hp?s=%5EIXIC+Historical+Prices

私のような門外漢でもこう言った資料が比較的簡単に集められるのは、まさにインターネットの恩恵である。

 

米ドル換算した日本の株価

Fig. 2上段で、2012年11月以降は株価の上昇率が為替の下落率を大幅に上回っていて、米ドル換算しても株価は上昇を続けていることが分る。Fig. 1では変化が強調されるよう、2つの曲線の縦軸を別々に調節してたからほとんど相殺されそうに見えたのだが、Fig. 2では比率が正確になるよう目盛りを合わせているから、そのことがはっきりと分る。

Fig2

2012年11月以降、米ドル換算した日経平均株価の方がNASDAQよりも値を伸ばしているのは上段のグラフでも明らかだが、それらの比をプロットした下段では日米の株価に共通した値動きは相殺されて、違いだけが残る。長期的な傾向は、2009年8月以前=一定、2009年9月~2012年10月=低下、そして2012年11月以降=上昇、と考えていいだろう。それぞれの期間に1箇所ずつ長期的傾向に反する部分が含まれ、2008年8月~2009年1月はリーマンショック、2011年3月~8月は震災による急落とその反動と考えられる。2013年1月~2月の部分は、発足前にあった安部内閣への過度の期待に対する反動かもしれない。

Fig. 2下段グラフの値の定量的な意味はこう言うことだ。同じ日に日本株と米国株を同じ金額分買い、しばらくしてそれらをまた同じ日に両方とも売ったとする。売った日のグラフの値が買った日よりも大きければ、平均的に日本株の儲けが多い(または損失が少ない)と言う事。これを第2次安部内閣が発足した2012年12月26日と、その4ヵ月後の2013年4月26日について当てはめると、グラフの値は0.040081と0.042945である。

Benefits

12月26日に同じ金額、例えば$100分の日本株と米国株を買ったとしよう。それを4月26日に売却した。日本株の売却代金は米ドルに両替すると$117.50になる。一方、米国株の売却金額は$109.67である。これらの比率 (117.50÷109.67) = 1.0713が、Fig. 2下段グラフの値の比 (0.042945÷0.040081) = 1.0715と等しくなると言うこと。実際は最後の桁の数字が違うが、これは丸め誤差だろう。なおこの約1.071と言う値は日本円で比較しても同じになる:(135.71÷126.67) = 1.0714 (代数を使えばこうなって当然であることを簡単に確かめることができる)。

 

もう少し詳しく

2008年8月~2009年1月の長期的傾向からの逸脱を「リーマンショックの影響」で済ませてしまったが、これはもう少し詳しく見る必要がある。ちなみに、リーマンブラザーズ破綻は2008年9月15日だった。

Fig4_w_comment

Fig. 4の各時期について『下段グラフの傾向:主要因(関連事項)』を箇条書きにしてみた。
① 急降下:円安と米国株価の上昇
② ピーク:為替相場変動の裏返し(日米株価水準はほとんど連動)
③ 横ばい:各要因が相殺(長期的円高傾向が始まる)
④ 凋落:円高の率を上回る株価低迷

2009年3月~4月の間は為替相場が\100近くまで円安に戻ったことに注目しなければならない。リーマンショックで行き場を失った「マネー」が相対的に最も安全な場所に流れ込んだ結果円高になった、と言う「定説」があるが、これが当てはまるのは2009年2月までの短期間だけではないか。素人考えだが、それ以降の長引いた円高はFRBと日銀のとった行動の違いの影響が大きいと思う。

調べてみて分ったこと。日米とも2008年の暮れ以降「実質ゼロ金利」政策を採っているが、それ以前の金利(いわゆる公定歩合に相当するもの)水準は米国の場合約5%(2007年8月、2008年8月は2%)だったのに対し日本は約0.5%(2007年8月、2008年8月も0.5%)だったので、先ず金利引き下げの効き方が違った。さらにFRBは2008年11月から量的緩和(目標を定めて住宅関連債権および国債の買い入れ)を継続している。それに対して日銀は、2012年までの間に散発的な債権買い入れを行っているが、量的緩和と呼べるものではなかった。

 

NASDAQ vs. Dow Jones

日経平均と引き合いに出される米国の株式指標は、NASDAQよりもDow Jones Industrial Average (DJI) の方が一般的だと思う。あえてNASDAQを参照したのは容易にCSVファイルとしてダウンロードできたからである。なおDJIに替えてNASDAQを使っても、今回の目的の範囲なら大差ないことをWeb上で目視確認したつもりである。

実はDJIの数値もYahoo Financeで参照できる。
しかしなぜか「Download to Spreadsheet」のリンクが見つからない。もしかすると私の知らない操作方法があるのかもしれないが、いくつか試した個別銘柄はダウンロードできるので、情報提供元の意向によるものではないかと思う。

ちなみに日本のYahoo!ファイナンスの場合、個別銘柄は「VIP会員」(有料:月額\2,079)になればダウンロードできるようだが、日経平均はダメらしい。本家・日本経済新聞もダウンロードのオプションは提供していないようなので、これも情報提供元の意向なのだろう。

 

今回のまとめ

日経平均株価を米ドル換算しただけだとあまり得るものは無いが、米国株価との比をとると長期的な傾向が現れた。これは、過去の経済状況を理解するのに有用である。

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