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2014年6月28日 (土)

マディソン大統領の肖像入り紙幣

レイモンド・チャンドラーのThe Long Goodbye。2か月ほど前NHKがドラマでやっていたのが結構面白かったので原作 (Kindle版) を買って読んだ。

読んでいて当時の貨幣価値が気になったので調べてみた。

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1953年の$5,000

NHKのドラマでは手紙に現金は入っていなかったと思う。最終回に出てきた札束がその代わりかな。

マディソン大統領の肖像が入っているのは$5,000札である。$100札ですら流通しているのはラスベガス位のものだと教えられていたので、アメリカにそんな高額紙幣があったのかと驚いた。調べてみると一番の高額紙幣は$100,000札だったらしい。政府とFRB間の決済用とか。わざわざ作る必要があったとは思えないが。

$5,000は大金、と言うニュアンスで描かれている。預金$1,200と債権$2,000~3,000、合計ざっと$4,000の金融資産がマーロウの全財産の様だから、それに比べれば確かに大金だろう。しかしこの本が書かれた1953年ごろの通貨レートで計算しても$5,000は180万円である。小さな金額ではないが、「大金」と言われてもピンと来ない。

過去のアメリカの貨幣価値に関する情報を探していたら、そのものズバリのサイトが見つかった。

Mesuringworth

Source: http://www.measuringworth.com/

2014年を指定したのだが、2013年までのデータしかないと怒られた。そりゃそうだ、2014年は未だ終わっていない。

過去の貨幣価値を計算するのに、今まで何の疑問もなくCPI (Consumer Price Index、消費者物価指数) を使うのだと思い込んでいたが、換算に使う指標が違うとずいぶん数字が変わる。

指標の対象 換算に使う指標 2013年の価値 [$]
モノの値段 Consumer Price Index 43,500.00
GDP deflator 35,100.00
給与水準 unskilled wage 61,500.00
Production Worker Compensation 72,000.00
GDP nominal GDP per capita 109,000.00
relative share of GDP 216,000.00

生活実感に近いのは「モノの値段」と「給与水準」だろう。この2つでも結果が最大2倍違ってくる。どうやら60年前のモノの値段は現在の1/9~1/7程度だが給与水準は1/12かそれ以下だった、と言うことらしい。値段が安くても買うカネが懐に無ければアウトだから給与水準の方が合っているんじゃあないかと言う気がするが、マーロウは給与生活者ではなかった。ここはざっくり60年前の貨幣価値は1桁高かった、と言っておくのが良さそうである。

指標にGDPを使うとさらに倍以上違うのだが、これは生活実感とは合っていないようである。と言うのは、GDPのPは生産 (Production) だが、それは同時に消費されたと言うことでもある。GDPは給与収入を財源に消費されたもの以外に企業の設備投資や、株式配当のような給与以外の家計収入で賄われた分が含まれる。どうやらこういった部分の伸びが効いているらしいから、生活実感とは合わないと考えたのだ。

60年前マディソン大統領の肖像が入った紙幣は、現在の$50,000の価値があった。これなら大金と言っていいと思える。しかし駐車場係りのチップに$1紙幣を渡すのはどうなのだろう。チップにコインは失礼になるらしいので、今も昔もチップの最低相場はたぶん$1だ。しかし今駐車場係りのチップに$10渡す人がいるとは考えにくい。昔はチップで生計を立てている人がいたと聞いたことがあるが、こういう事だったのか。昔のアメリカ人は気前が良かった。

 

豊かになったと実感させる仕掛け

60年前のアメリカではモノの値段が1桁近く安かったが、給料は1桁以上安かった。ひっくり返すと、モノの値段は上がったがそれ以上に給料が上がった、と言うことになる。多分こう言った状況が私たちに「豊かになった」と感じさせているのだろう。実際の状況がどうだったのか、前出のMeasuring Worthから入手した日本、アメリカ、そしてイギリスの物価と給与水準をグラフにしてみた。

Cpiwage19202010

1つのグラフにうまく収まるよう便宜上西暦2000年を100としたが、各国の物価や給与水準がその時同程度だったという意味ではないので注意してほしい。日本は太平洋戦争末期に国家財政が破綻したのに伴い物価水準が2桁跳ね上がっている。また1948年より前の給与水準のデータが無い。

どの国も長い目で見ると給与水準の上昇の方がが物価水準より高い期間が続いていたことが分かるが、アメリカだけ他と様相が少し違う。日本とイギリスは2000年になる直前まで物価と給与水準が乖離しているが、アメリカは1960年代の半ば以降ほとんど一致してしまっているのだ。少し前「モノの値段は上がったがそれ以上に給料が上がった」と書いたが、それは1960年代半ばまでの事で、それ以降はモノの値段と給料が連動する一種の平衡状態に到達したように見える。このことを詳しく見るため、物価と給与水準の比をグラフにしてみた。

Cpiwage19202010ratio

前のグラフは広い範囲の値が分かるように縦軸を対数目盛にしていたので小さな違いは良く分からなかった。このグラフで見ると、アメリカの給与水準の増加率が物価水準を継続的に上回っていたのは1973年までだと分かる。第一次オイルショックの年だ。それがきっかけで何かアメリカ社会の様相が変わった、なんてことがあるのかもしれない。この時日本では狂乱物価でモノの値段も給与水準も大きく上がったが、物価に対する相対的な給与水準の伸びはそれ以前の高度成長期の方が大きかったことが分かる。

イギリスは21世紀に入っても給与水準の伸びが物価水準を上回っていたが、リーマンショック以降逆転したようだ。日本とアメリカでも給与水準の伸びが物価水準を下回り始めているような気配があるが、これは元のデータをもう一度詳しく見る必要がある。

Cpiwage19202010zoom

最初のグラフの後半を拡大したものだ。アメリカとイギリスでは鈍化したものの給与水準は依然上昇を続けているが、日本では下降に拍車がかかったように見えなくもない。残念ながらMeasuring Worthに日本のデータは2011年までしかなかったから、アベノミクスの効果が出ているのかどうか、これからは知る術がない。物価も給与も上昇に向かい始めたと聞くが、給与水準の伸びが物価を上回るようになって初めて、アベノミクスはうまくいったと言えるのではないかと思う。

 

今回のまとめ

60年前のアメリカの貨幣価値は現在の約1/10である。これを円換算するのに当時のレートを使うと貨幣価値の違いを二重取りすることになるはずなので、現在のレート約100円/$を使うことにする。コーヒー缶に入っていた$500は50万円、マディソン大統領の肖像入り紙幣は500万円。テリー・レノックスは金持ちの女と結婚した。金には困っていなかった、って事だね。

本のカバーにもシルエットが使われているギムレットの事をあまり詳しく知らなかったので調べてみたら、少々ショッキングなことが分かった。ジン・ライムと同じレシピをシェイクしたものだとか。ジン・ライムは安酒の代名詞だと思っていたのだが、これは日本で売られているカクテル用ライムジュースと称するものに原因がある。とても人間が飲むものだとは思えない味がする。フレッシュ・ライムと砂糖を試したら美味いのができた。

Kindle版は辞書を引いたりWebで調べたりするのが楽だ。スラングを調べるのが面白くてあまり物語に没頭できなかった。口直しに村上春樹版を買って読み直している。

本文だけで594ページ。うへぇ。文庫本だがタブレットよりも重いし、厚さだって2倍以上だ。図や写真の無い本は絶対電子書籍だと思う。しかし文字情報が無くなるはずなので自炊する気にはならないなぁ。

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