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2014年8月18日 (月)

ワットチェッカー的なものを自作する (その4)

このシリーズの前回の記事にBBBのPRUを使ってADE7753からデータを取り込む方法を紹介すると書いたが、今回はその予定を変更する。

PRUの件の記事を準備する過程で発見したことを書く。電源用トランスを商用電源から電圧信号を取り出すのに使うには少し問題がある。

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ADE7753の電圧信号の位相遅れ対策

ADE7753では波形データとゼロクロス信号に使う電圧データはLPFを通るため50Hzで約19.7°の位相遅れがある。rmsと皮相電力の計算にも同じ信号が使われるが、出力されるのが信号周期よりも十分長い期間の平均値なので位相遅れは問題にならない。また有効電力とリアクティブ電力の計算にはLPFを通る前の電圧信号が使われている。

電流波形などと並べて電圧波形をプロットする場合は位相遅れを補正する必要がある。波形データの取り込み開始はゼロクロス信号を基準に制御するが、この信号も位相遅れがあるので電圧波形はそのままでよい。しかし電流と有効電力の波形を取り込む場合はタイミングを調整する。

300w

サンプル数単位の記録開始遅延時間が信号の周期とサンプルレートから計算できるので、ゼロクロスの後その数だけサンプルを破棄し、その後記録開始すればよい。純抵抗負荷として300Wの強制空冷式のダミーロード、と言うと大仰だが早い話ヘアードライヤーを接続して波形データを記録してプロットしてみた。

300w

27.9kspsで出力するよう設定したADE7753のWAVEFORMレジスターのデータである。各値は暫定的な換算係数を使っているので正確ではない。電流と電圧の間に位相差は無いはずなのだが、プロットのゼロクロス部分を見ると明らかに電流の位相が遅れている。タイミング調整が間違っていないか確認したが問題ない。こうなるとADE7753に入力される信号そのものの位相差を疑う必要がある。

なおグラフ上の波形の振幅は特に調整していないが、偶然ほぼ同じになった。こうなっているとグラフを見ただけで位相差が分かり易い。

 

入力信号を確認する

このシリーズの最初の回でやったようにPCオーディオを使って信号を確認してみた。これなら計測系の電流と電圧の信号経路に位相差は無いので信号の元々の位相差がはっきりと分かるはずである。

Wf_consoli

今度は振幅を合わせるロジックを入れた。ゼロクロス付近を見ると約250μsの時間差がある。位相にして4.5°だ。電流の波形が遅れている。

最初電流トランスの問題を疑った。今回使った電流トランスの仕様に位相誤差の規定は無いが、一般的な電流トランスの例だと計測範囲の下端付近では最大200分=約3°程度の位相誤差が出る場合がある。しかし電流トランスの位相誤差は通常進み方向なので今回の現象と合致しない。

プロットをよく見ると少しおかしなことがあるのに気付いた。ゼロクロス付近に比べてピーク付近は曲線のずれの程度がかなり小さい。これはどうも波形歪があるらしい。そう言うことなら波形をフーリエ変換してスペクトラムを見るのが一番いい。

Spectrum

パワースペクトラムの平方根を取っているので縦軸は振幅比に相当する値である。ほとんどの部分は一致しているが、3倍の高調波である150Hzの成分だけは電圧の方が電流よりも10倍程度大きい。またフーリエ変換結果から得られた歪率と位相関係の情報は以下のとおりである。

電流波形 電圧波形
歪率 (THD+N) [%] 3.1 4.0
50Hz成分の位相角 (窓関数基準) [°] -44.6 -41.9
50Hz成分の位相差 (電圧-電流) [°] 2.7

どうやらこれはこう言うことらしい。

  • 電圧信号取り出しに使っているトランスで歪率約2%に相当する3次高調波歪が発生している。
  • それ以外の波形歪は供給されている商用電源波形に元々あった可能性が高い。

トランスが発生している3次高調波歪の量はスペクトラムのプロットから推定した。歪率を計算する時、高調波の各成分の二乗和の平方根を取るため加成性が成り立たない。また歪以外に50Hzの基本波成分の位相差もあり、電圧信号が電流信号より2.7°進んでいる。

波形歪と位相誤差による電力値の誤差は平均的な条件で5%程度と見積もられる。これは無視できない大きさなので対策が必要だ。また最悪条件では相当大きな誤差になる可能性もある。

なお電流波形には電圧波形に無い偶数次の高調波や倍数関係でない周波数の成分があり、ファンを回しているブラシモーターなどからのノイズではないかと思われる。ただしレベルが-60db以下と小さいので無視しても影響ないはずだ。またADE7753を使って採取したものに比べて電圧波形のピークが平坦になっているが、これはADE7753の電圧波形はLPFを通ったものなので高調波が取り除かれて正弦波に近くなっているためだと考えられる。

 

対策

今回調査して電圧信号の取り出し用に造られた「電圧検出トランス」があることが分かった。詳細な資料 (PDF) によれば波形歪と位相誤差両方とも小さくなるように作られている。商用電源の電圧信号を得るためにはこの種のトランスを使わないとマズかったようだ。

詳細資料を見ていて気付いたのだが、これによれば電源トランスの場合の位相差は最大100μsecに及ぶとある。今回使ったトランスの場合、基本波の位相差2.7°は150μsでやや大きい。電流トランスの位相進みもあればその分さらに大きいはずだ。意図的に選んだのではないが、今回使った電源トランスは「Short circuit proof」になっているものだ。もしかするとその影響があるのかもしれない。

前出リンクの製品ではないが電圧検出トランスを手配した。この製品は通販で入手可能だ。ただし少し納期がかかるようである。また歪・位相誤差の規定値は不明だが、今使っている電源トランスよりかなりマシだろうと期待している。

ADE7753を使うのなら電圧と電流信号は抵抗で取り出し、デジタル信号に変換された部分で絶縁する手段が使える。量産する製品ならこうすべきだろう。ワットチェッカーの類にBluetoothでスマートフォンやPCとつないで使うものがあるが、無線接続にしているのは絶縁する目的も兼ねているのだと思う。

 

今回のまとめ

電流・電圧信号を取り出すのにトランスを使うと位相誤差があるかもしれないと認識していたが、波形歪までは考えが至らなかった。位相誤差に変動が無ければ補償可能である。しかし変動が無い確証はないし、また歪は簡単には補償できない。

安全性と自由度を確保するため電圧検出トランスを使うようにした。これで問題ない範囲に収まる事を期待しているが、トランスを使う限りそれに伴う誤差がゼロにはならない。抵抗を使って信号を取り出すようにすれば位相誤差と波形歪はほとんどゼロにできるはずである。

電圧検出トランスが届くまで時間がかかりそうなので、いったん本来の予定に戻そうと思う。届いたらトランスの差異比較をして報告するつもりだ。

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