ワットチェッカー的なものを自作する (その5)
手配した電圧検出トランスが意外と早く到着したので、再び予定を変更して前回の記事の続きを書く。
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電圧検出トランスVT2401-A01
左側が到着した電圧検出トランスである。
今まで使っていた電源トランスに比べると二まわりほど小さい。メーカーのホームページに「0.03Φの極細電線の巻き線技術により、国内最小クラスの小型化を実現しました」とあるが、本当に小さい。一次巻き線の直流抵抗を測ったら約14kΩだった。電源トランスは約750Ωなので約19倍、トランスの巻き線とは思えない値だ。位相が進まないよう巻き線インダクタンスを大きくする必要があるはずだから極細電線を多数回巻いているのだろう。
写真で分かるように引き出し部分の巻き線が露出している。少し気になる構造だ。写真に写っているのは二次側なので割と太い電線だが、反対側の一次巻き線は「0.03Φの極細電線」だ。基盤に実装してしまえば奥まった場所になるのでうっかり触って切ってしまう心配は無いのかもしれない。しかしフラックスなどが付着して長期的には腐食したりしないか心配である。
二次電圧をデジタルテスターで測ると約1.2Vだった。電源トランスの場合の約1/10。このくらい小さな電圧だとテスターは誤差が大きくなる可能性がある。一応の参考情報だ。電圧の換算係数などは組み立てた後、実測した一次電圧との対比で求めることにしよう。
電圧検出トランスの効果
前回と同じようにPCオーディオを使って信号を確認してみた。ただしトランスの二次電圧が低下したのを補うため電圧信号の分圧比を1/101から11/111に変更している。この際にPCから見た信号源インピーダンスが10倍高くなったのでノイズを拾いやすくなってしまったようだ。
電圧信号のノイズで曲線が左右に揺れているが、ゼロクロスの時間差は揺れの中心を採ると約30μsである。位相にして0.54°だ。電圧の波形が遅れている。前回は250μs≑4.5°電圧信号が進みだったので、電圧信号の位相進みが電流信号よりも小さくなったようである。
フーリエ変換したスペクトラムを見ると、
3倍の高調波成分は依然として電流波形より電圧波形の方が大きい。しかしその違いは2倍程度 (以前は約10倍) であり歪率1%に相当するよりも小さなレベルなので全体に及ぼす影響はかなり小さいはずだ。フーリエ変換結果から得られた歪率と位相関係の情報でみると、
電流波形 | 電圧波形 | |
---|---|---|
歪率 (THD+N) [%] | 2.8 | 2.8 |
50Hz成分の位相角 (窓関数基準) [°] | -17.5 | -17.8 |
50Hz成分の位相差 (電圧-電流) [°] | -0.3 |
第3次高調波歪の量は歪率の数字に表れるほどではない。
総合的に考えると、電圧検出トランスで電圧信号を取り出す際に生じる歪や位相差など誤差の要因は、電流信号を電流トランスを使って取り出す際のものと同じ程度の水準に収まった、と言えそうである。
電圧信号の換算係数
トランスの出力電圧が小さくなったことに合わせてADE7753の回路を以下のように修正した。
朱記した抵抗値の変更1か所である。この回路を使って電圧信号のアナログ的な分圧比などを計算した。
No. | 項目 | 根拠、式など | 値 |
---|---|---|---|
① | 商用電源電圧 | テスターで実測 | 100.5 [Vrms] |
② | ADE7753 VRMSレジスター値 | 実測 | 0x0dc395 |
③ | ADE7753 ch2入力電圧/ADC出力データ | このシリーズの記事第3回 | 4.844e-05 [V] |
④ | ADE7753 ADC出力/VRMSレジスター値 | このシリーズの記事第3回 | 4.566e-03 |
⑤ | ADE7753 ch2入力電圧 | ② x ③ x ④ | 0.1995 [Vrms] |
⑥ | 電圧検出トランス二次電圧 | ⑤ x (5.1 + 1) | 1.217 [Vrms] |
⑥ | 電圧検出トランス変成比 | 100:(⑥ x 100 / ①] | 100:1.211 |
このシリーズ第3回の記事に登場した電圧の減衰比をRは、今回の電圧検出トランスを使った回路では以上の結果から R = (1.211/100) x (1/6.2) = 0.001953 である。電源トランスを使った回路では 0.002115 だったので少し小さな値になり、フルスケールまでの余裕が若干増えたことになる。
電圧信号取り出しに電源トランスを使うべきでないもう一つの理由
製造元のデータシート (PDF) によると、今まで使っていた電源トランスは無負荷時消費電力 (No-load loss) が0.6W (代表値) ある。電圧を測ろうとするだけで少なくとも0.6W電力を消費してしまうのはバカらしい話だ。またトランスがそれなりに熱を持つのもあまり気持ちのいいものではない。
今回入手した電圧検出トランスに無負荷時消費電力の規定は無い。無負荷状態で一次電流を実測したら約190μAだった。電圧に対する位相関係などは分からないが、このトランスによる無負荷時の消費電力が19mWを超えることが無いのは確かだ。また二次側で電圧を測る際に消費する電力は大きくても1mWを超えないので、負荷状態の消費電力もせいぜい20mW位だろう。
小さな数字の議論だが常時電源に接続しておく場合を考えるとそれなりに差が出る。1年間の電気代は (0.6 – 0.02) [W] x 24 [h/日] x 365 [日/年] x 0.001 [kW/W] x 30 [\/kWh] = 152 [\/年] の差になる。電圧検出トランスと電源トランスの価格差がほとんど無いことを考えると、無視できない数字である。
今回のまとめ
電圧検出トランスにより目論見通りの効果が得られた。今度こそ本来の予定に戻そう。このシリーズの次回はPRUを使ってADE7753のデータを取り込む方法を紹介する。
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