カメラのファインダーについて考える
久しぶりの更新だ。
今回はカメラのファインダーについて書こうと思う。
以前の記事に「Fujifilm X-E2のファインダーがもの凄くイイけど、高いから買わない」と書いた。その続きのようなものである。ただし「やっぱり買っちゃいました~」と言う内容ではないので、期待した人には申し訳ないが悪しからず。
今回のテーマは「使い易いファインダーってどんなのだろう」と言う事。
主に一眼レフとEVF(電子式ファインダー)を対象に考えてみる。
「見易い」のは「使い易い」の必要条件だが、多分それだけではない。
/*----------- -----------*/
ファインダーの性能指標1: 視野率
「撮影される画像の何%が見えるか」と言うもので、「100%が理想」と、実にわかりやすい性能指標だ。また同時に「ファインダーで見えているのに写らないものがあるのはケシカラン」と言うことで100%を超えるのはタブー視されている。
現在製造されているデジタル一眼の場合、中~高価格帯の製品は視野率: 公称100%のものがほとんどで、Canonによれば実態は99±1%になっているとのこと。エントリークラスのデジタル一眼だと95%程度である。
数字ではなかなか実感がわかないと思うので実例を見てみよう。
これはファインダーの中を別のカメラで写した画像に、撮影した画像を半透明にして重ねたものだ。緑枠は撮影した画像、青枠はファインダー内に見える画像の大きさを表している。
いちばん上に記載した数字はそれぞれの枠の画素単位の大きさを画像処理ソフト上で測り、それからファインダー視野率を計算している。なお上の画像はブログに掲載できるよう縮小しているので記載した数字と画素数が異なる。また計算は縦横それぞれの寸法で行う事などがCIPA(カメラ映像機器工業会)の「デジタルカメラの仕様に関するガイドライン(改訂版)」に規定されている。
上の画像はPENTAX *ist DLの例で、計算値の縦横とも96%はカタログ通りである。
ちなみにEVFは視野率100%であるものがほとんどだ。これは原理的に100%ピッタリにできる。ただし稀に100%でないものもあるので注意が必要である。
最近は「ファインダー視野率100%でない一眼レフはダメ」とでもいうような風潮があるようだが、私の感覚では上の視野率96%で支障があるとは思えない。これは撮影スタイルや撮った後の画像の取扱い方によって変わるものなのだと思う。本当に視野率100%ピッタリのファインダーでないと支障のある人はEVFを使うべきである。
赤枠は後程実例で紹介する銀塩・マニュアルフォーカス時代の一眼レフの視野率92%に相当する範囲を画像処理ソフトで描き加えたものだ。さすがにここまで余白が大きいと困りそうな印象だが、実際に問題になったことはほとんどない。詳細は後程述べる。
ファインダーの性能指標2: 倍率
もう一つの良く参照される指標である。「ファインダーを通してみた場合、肉眼の何倍に見えるか」と言うもので、望遠鏡の倍率と同じ考え方である。
ところで「肉眼でものを見た場合の大きさ」をどう表すか?
同じ物でも近くにあれば大きく見えるし、遠くにあれば小さく見える。
「m」とか「mm」のような長さの単位では表せないので「見かけの角度」使う必要があり、倍率も角度の比で表すことになる。これは望遠鏡と全く同じである。ちなみに観察対象(被写体)の光学系内の位置が決まっている顕微鏡の倍率は、見えている虚像の大きさと観察対象の大きさの割り算で定義できる。しかし観察対象や被写体の位置が一定しない望遠鏡やカメラのファインダーではそうはいかない。
下の図はファインダーを含む一眼レフの光学系を模式的に表したものだ。倍率に本質的に無関係な、像を正立させるためのフリップミラーとペンタプリズムまたはミラー、および性能や機能を向上させるためのコンデンサーレンズやスーパーインポーズ用の光学系など省略している。ただし実際には省略したそれらの要素が幾何学的・光学的な光路長に影響することを、最終的に加味することが必要である。
結局近軸領域近似を使って寸法の比率で表すことができたが、本来これが成り立つのは光軸近傍の微小領域だけである。しかしご心配なく。実はこの結果をファインダー像全体に使えるのだ。実用的な程度にファインダー像に歪が無いと言う立場に立つと、倍率は像のすべての場所で同じになる。
ペンタミラーを使っている場合L2は幾何学的寸法そのものだ。しかしペンタプリズムを使っている場合、光学的な光路長は幾何学的寸法よりも短くなる。従ってペンタプリズムを使ったほうがファインダー倍率を高くできる。厚みのあるガラスに垂直から多少ずれた角度で入射する光線の経路を考えれば、その理由を容易に理解できるはずである。
ファインダー倍率が大きければ像が見易い。特に手動でピントを合わせるとき重要になる。ただ大きければ大きいほど良いのかと言えば、これは程度問題である。詳細は後程触れる。
ファインダーの性能指標3: 視野角
視野角はファインダー像全体に対する見かけの角度、前の図のθ2で、通常対角線の大きさに対するものである。
ファインダーを覗いた時、第一印象としての見え方の大小は主に視野角の違いが原因であると考えられるが、視野率や倍率ほど話題にならない。一眼レフについて、最近後者はほぼ間違いなく公表されているが前者はそうでないことが原因だろう。
また視野角は視野率、倍率および撮影される画像サイズから一意に計算できるので、視野率100%を絶対的な前提とすれば視野角と倍率の議論は定性的に同じと言えるのも事実だ。しかし今回は視野率が100%ではない昔のカメラや安価な一眼レフも話題にするので、視野角の性格を理解しておく必要がある。
上に示した通り、視野角は視野率、倍率および撮影される画像の大きさから計算できる。顕微鏡に倣って明視の距離にある虚像を見ていると想定すれば、虚像の大きさも同じデータから計算することができる。
さらに上の図から興味深いことが分かる。
ファインダーで見えるフォーカシングスクリーンの大きさ(今後表現を簡素にするため「フォーカシングスクリーンの大きさ」をこの意味で使う)Bdが変化した際、フォーカシングスクリーン以降の光学系が相似形を維持して大きさを変えると仮定すると、視野角および虚像の大きさが一定になるのだ。相似形なのでBd/L2が一定になるからである。
視野率を下げると倍率が上がり、結局相殺されて視野角は一定、とも言える。
L2がペンタプリズムまたはミラー内部の光路長だけなら上の仮定が成り立つ余地があるが、実際はそうではない。今まで省略していたコンデンサーレンズの厚さやスーパーインポーズ用光学系などの光路長は比例関係で変化するとは考えられない。比例関係より変化が少ない、あるいは一定だと考えられる場合も少なくないだろう。そのためBdが小さくなると視野角は減少する傾向になることが予想され、現実にそのとおりになっている。
もう一つ相似形を保てないと考える理由がある。仮に相似形を保って大きさを変えられたとすると、アイレリーフも比例して変化するはずである。小さくしていく場合を考えると、これは具合が悪い。一定以上のアイレリーフを保とうとすると相似形を崩さざるを得ないと考えられるからである。
アイレリーフについて
私は眼鏡を使っている。眼鏡をかけたままファインダーをのぞくには比較的長いアイレリーフが必要である。ただし必要なアイレリーフ長は見口付近の構造、例えばアイカップの構造やその有無などとの兼ね合いで変わるので、一律何mmあればOKと言えないのが悩ましい。
アイレリーフが長すぎるのも意外と使いにくいものである。
最近の製品にはないと思うが、昔数十mmのアイレリーフがあるファインダー売られていたようである。私はこのようなファインダーを使ったことがないが、同程度のアイレリーフを持つライフルスコープを使った経験からすると目の光軸合わせに慣れが必要だと思う。特にスコープ単体だと目安になるものがないので苦労するが、カメラのファインダーは常にこれと同じような状況になるのではないかと思う。
今売られているカメラのファインダーのアイレリーフはせいぜい20mm台が上限のようなので、長すぎて困ることを心配する必要はなさそうである。
最近のカメラの動向
参考のため、現在新品で入手できるデジタル一眼レフカメラの光学ファインダーのデータをまとめてみた。なるべく新しいもの、と言うことで、未発売だが仕様が発表済のものも含めている。
ブランド | 型式 | サイズ※ | ペンタ | 視野率 [%] |
倍率 | 視野角 [deg 対角線] |
虚像サイズ [mm 対角線] (@明視距離) |
※センサーサイズ [mm] (幅x高さx対角線) |
アイレリーフ [mm] (レンズ中心より) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Canon | EOS-1D X Mk2 | フル | プリズム | 100 | 0.76 | 36.3 | 164 | 35.9x23.9x43.1 | 20.0 |
Nikon | D5 | フル | プリズム | 100 | 0.72 | 34.5 | 155 | 35.9x23.9x43.1 | 17.0 |
PENTAX | K-1 | フル | プリズム | 100 | 0.70 | 33.6 | 151 | 35.9x23.9x43.1 | 21.7 |
Canon | EOS 80D | APS-C | プリズム | 100 | 0.95 | 28.6 | 127 | 22.3x14.9x26.8 | 22.0 |
Nikon | D500 | APS-C | プリズム | 100 | 1.00 | 31.6 | 141 | 23.5x15.7x28.3 | 16.0 |
PENTAX | K-3 II | APS-C | プリズム | 100 | 0.95 | 30.0 | 134 | 23.5x15.6x28.2 | 22.3 |
Canon | EOS-800D | APS-C | ミラー | 95 | 0.82 | 23.6 | 104 | 22.3x14.9x26.8 | 19.0 |
Nikon | D5500 | APS-C | ミラー | 95 | 0.82 | 24.8 | 110 | 23.5x15.7x28.3 | 17.0 |
PENTAX | K-100D | APS-C | ミラー | 96 | 0.85 | 26.0 | 115 | 23.5x15.7x28.3 | 21.5 |
個別の論評や比較は避けるが、特に目を引くものについて補足しておく。
35mmフルサイズのグループでCanon EOS-1D X Mk2がある程度長いアイレリーフを確保しながら視野角がとびぬけて大きい。同社のWebによればペンタプリズムに特別な高屈折率の素材を使っているとあるので、その効果の可能性がある。
実際にファインダーの見え具合を確かめてみる
私が調べられる範囲の、以下のカメラについてファインダーの見え方を調べてみた。
ブランド | 型式 | 発売年月 |
---|---|---|
PENTAX | ME Super | 1979年12月 |
CONTAX | T2 | 1999年11月 |
PENTAX | *ist DL | 2005年7月 |
RICOH | GX200+VF1 | 2008年7月 |
Sony | RX100M3 | 2014年5月 |
PENTAX | K-S2 | 2015年3月 |
同じコンパクトカメラ・同じズーム状態(ワイド端)でファインダーの中を撮影した。これはケラレなどに関して眼鏡をかけてファインダーをのぞいた時の条件に近い。視野角を大まかに比較することができる。
ファインダー全体の画像は最も視野角の大きいカメラのファインダーに合わせて全て同じようにトリミングし、ブログに掲載できる大きさまで縮小した。それに加えてファインダー中央付近を原寸、いわゆるピクセル等倍で切り出したものを詳細確認用に掲載している。
以下発売の古い順に掲載する。
PENTAX ME Super (1979年12月発売)
項目 | 値 | 備考 |
---|---|---|
画像フォーマット | 35mmフル | |
画像サイズ | 43.3mm | 対角線 |
ファインダー方式 | ペンタプリズム | |
ファインダー視野率 | 92% | メーカー公表値 |
ファインダー倍率 | 0.95 | メーカー公表値 (50mm・∞) |
ファインダー視野角 | 41.4° | 対角線 |
虚像サイズ | 189mm | 対角線@明視距離 |
メイン機として使っているときは意識しなかったが、こうやって比べると実に広大なファインダーである。それに倍率0.95は突出して高い。なお上の写真ではME Superのピントが若干手前にずれていたはずである。
マニュアルフォーカスしか無かったこの時代だからピント合わせを優先してこのようなファインダーになったのかと思い、同じ時代の他社製品と比較してみた。なお掲載したCanon製カメラでは上下と左右の視野率が異なるが、差はわずかなのでCIPAのガイドラインに従い計算した平均値を用いた。
ブランド | 型式 | 視野率 [%] |
倍率 | 視野角 [deg 対角線] |
---|---|---|---|---|
PENTAX | ME Super | 92 | 0.95 | 41.4 |
Olympus | OM-1 | 97 | 0.92 | 42.2 |
Nikon | F3 | 100 | 0.8 | 38.2 |
Nikon | FE | 93 | 0.86 | 38.2 |
Canon | FE | 92.5 | 0.82 | 36.3 |
Canon | A-1 | 94.4 | 0.83 | 37.5 |
どやら当時PENTAXがOlympusと小型軽量一眼で競い合っていた影響らしい。
ボディ小型化のためフォーカシングスクリーン以降の光学系を簡素化した。そのため光路長が短縮され、大きな視野角になったのだと考えられる。PENTAXは小型化でOlympusの上を行くため視野率を下げた。こうするとペンタプリズム周りを小さくできる。その結果倍率が上がった、と言う事ではないかと思う。
しかしこの広大な視野角は、少なくとも私には大き過ぎたようだ。左側のシャッター速度表示を見るためには視線を動かす必要がある。良好な視認性を確保するためには、画像周辺に配置されたファインダー内表示まで含めた視野角は40°位、画像部分だけなら視野角35°位が上限ではないかと思う。
「なぜペンタミラーにしなかったのか」との思いがよぎったが、これは小型化に逆行するはずだとすぐ気づいた。ペンタミラーは鏡面の外側に剛性を保つための構造が必要である。そのため同じ大きさのフォーカシングスクリーンならペンタプリズムより大きくなってしまう。軽量化には貢献するものの小型化の役には立たない、と言う事らしい。
前の方に「(視野率92%でも)実際に問題になったことはほとんどない。」と書いた。このカメラではほぼネガフィルムだけを使っていたことが原因ではないかと思う。
ネガフィルムだと同時プリントのサービス判で最初に写り具合を確認することになる。コンタクトプリントは小さくてよく見えないと言う理由でこうしていた。印画紙の縦横比が3:2ではないため左右が有無を言わさずトリミングされる。またフィルムのコマの上下端に乱れがある場合に備えて縦方向にも若干トリミングされていたと思う。フチ無しならこの通りだが、フチ有でも上下左右のフチの幅はほぼ一定だったと記憶しているので、それが正しければフチ無し同様にトリミングされていたはずである。
従って視野率92%のファインダーで見えていなかったものが写っていても多くの場合トリミングされてしまい、めでたしメデタシ、と言うことになっていたようだ。リバーサルフィルムで写した写真をプロジェクターで見るような使い方が多かったら違っていたと思う。
CONTAX T2 (1999年11月発売)
項目 | 値 | 備考 |
---|---|---|
画像フォーマット | 35mmフル | |
画像サイズ | 43.3mm | 対角線 |
ファインダー方式 | 逆ガリレオ+ブライトフレーム | |
ファインダー視野率 | 85% | メーカー公表値 (対38mm画角@フレーム) |
ファインダー倍率 | 0.60 | メーカー公表値 (38mm・∞) |
ファインダー視野角 | 31.0° | 対角線 (∞@フレーム) |
虚像サイズ | 139mm | 対角線@明視距離 |
実にヌケの良いファインダーである。フォーカシングスクリーンが無いことの効果が大きい。レンズの数が少なくて済む逆ガリレオ式であることも貢献している。
なお視野率がブライトフレームを基準にしたものであることに注意してほしい。公表資料には明記されていないが、逆ガリレオ式の場合ファインダー像全体の位置と大きさがアイレリーフなどにより変化してしまうため、このように取り扱うことになっていたはずである。ファインダー像全体だと視野率は90%を超えていると思う。
フレームが二重になっているが、外側が無限遠用、内側が最短撮影距離(0.7m)用である。撮影距離が近くなると視差が変わり、またレンズの繰り出しにより画角が減少することに合わせたものだ。
今回調べてみてフォーカシングスクリーンの無いファインダーの良さを再認識した。
PENTAX *ist DL (2005年7月発売)
項目 | 値 | 備考 |
---|---|---|
画像フォーマット | APS-C | 23.5mm x 15.7mm |
画像サイズ | 28.3mm | 対角線 |
ファインダー方式 | ペンタミラー | |
ファインダー視野率 | 96% | メーカー公表値 |
ファインダー倍率 | 0.85 | メーカー公表値 (50mm・∞) |
ファインダー視野角 | 26.0° | 対角線 |
虚像サイズ | 115mm | 対角線@明視距離 |
アイレリーフ | 21.5mm | メーカーFAQ |
APS-Cペンタミラー機なので倍率が小さく視野角も狭く、手動でピントを合わせるのは辛い。しかし「各社デジタル一眼 光学ファインダーの視野率と倍率」の節に掲載した表で同クラスの他社製品を見ると、このカメラはかなりマシな方であることが分かる。「PENTAXはファインダーを頑張っている」と言われる所以だろう。その副作用でファインダー像が暗いというようなことを読んだことがあるが、実際どうなのか未確認である。
四隅が暗くなっているのはケラレが生じているためだ。眼鏡をかけて使う場合はアイカップを外すべきなのかもしれない。
RICOH GX200+VF1 (2008年7月発売)
項目 | 値 | 備考 |
---|---|---|
画像フォーマット | 1/1.7" | 7.5mm x 5.6mm |
画像サイズ | 9.6mm | 対角線 |
ファインダー方式 | 電子式 (EVF) | 液晶ビューファインダー (VF-1) |
ファインダー視野率 | 100% | メーカー公表値 |
ファインダー倍率 | 0.234 | メーカー公表値 (ワイド端) |
ファインダー視野角 | 22.5° | メーカー公表値 |
虚像サイズ | 100mm | 対角線@明視距離 |
アイレリーフ | 13.6mm | メーカー公表値 (接眼枠から) |
表示画素数 | 約20.1万ドット相当 | メーカー公表値 (3x299x224?) |
「EVFのついた撮像素子の(比較的)大きなコンパクトカメラ」と言う製品ジャンルに先鞭をつけた製品である。その意義は大きいと思うが、いかんせん見辛いEVFであまり使ったことがない。
ファインダーの視野角が小さいことが原因だと思っていたが、上の原寸画像を見ると画素数、つまり解像度が圧倒的に足りていなかったのだと分かった。RGB 3ドットで1画素だとするとQVGAよりも小さい。対角線を基準にすると、iPhone5の画面を目の前に置いているのと同じ大きさの虚像を見ていることを考えれば約20.1万ドットでは到底足りない。
GX200背面の液晶モニターが2.5型で約46万ドットなので、これまたアンバランスだ。
このファインダーではどんな画像が撮影されるか想像するのが難しい場合がある。それでは困る。
発売当時の技術で、妥当なコストで作ることのできるEVFはこの程度が限界だったのかもしれない。今日の基準ならVGA解像度相当の約92万ドットが許容できる最低ラインではないかと思う。
このEVFをほとんど使わなかったもう一つの理由は外付けだったからだ。カメラ自体コンパクトなのでジャケットやコートのポケットに入れて持ち歩きたい。しかしEVFを付けてしまうと引っかかって出し入れしづらくなるし、さらにその際うっかり壊してしまいそうである。そのため稀に使う場合は都度着脱していたが、これは結構煩雑である。ネックストラップでぶら下げるようなサイズのカメラだったらEVFを付けっぱなしでも良かったのかもしれない。
Sony RX100M3 (2014年5月発売)
項目 | 値 | 備考 |
---|---|---|
画像フォーマット | 1" | 13.2mm x 8.8mm |
画像サイズ | 15.9mm | 対角線 |
ファインダー方式 | 電子式 (EVF) | |
ファインダー視野率 | 100% | メーカー公表値 |
ファインダー倍率 | 0.59 | メーカー公表値 (35mm判換算、50mm・∞) |
ファインダー視野角 | 27.5° | 対角線 |
虚像サイズ | 122mm | 対角線@明視距離 |
アイレリーフ | 19.2mm | メーカー公表値 (接眼枠から) |
表示画素数 | 144万ドット | メーカー公表値 (3x750x640?) |
最近のEVFの標準的品質と言えるのではないかと思っている。まだ一眼レフの光学ファインダーに及ばない印象だが、かなりのところまで肉薄している。M4では解像度が上がり、X-E2に匹敵する仕様になっているから、一眼レフの光学ファインダーとそん色無い水準に達したのではないだろうか。
ちなみに一眼レフの光学ファインダーはマット面の粒状性の制限があるので、意外と解像度は高くないのではないかと考えている。
普段はボディに収まっていて必要な時にだけポップアップするのは、この小さなカメラの携帯性をスポイルしない工夫だ。これは実によい。いかにもSonyらしい印象だ。
改善してほしい点もあるが、今後ファインダーは光学式からEVFに移る流れを確信できるような製品である。
PENTAX K-S2 (2015年3月発売)
項目 | 値 | 備考 |
---|---|---|
画像フォーマット | APS-C | 23.5mm x 15.6mm |
画像サイズ | 28.2mm | 対角線 |
ファインダー方式 | ペンタプリズム | |
ファインダー視野率 | 100% | メーカー公表値 |
ファインダー倍率 | 0.95 | メーカー公表値 (50mm・∞) |
ファインダー視野角 | 30.0° | 対角線 |
虚像サイズ | 134mm | 対角線@明視距離 |
アイレリーフ | 20.5mm | メーカー公表値 (接眼枠から) |
APS-Cペンタプリズム機では標準的な大きさのファインダーである。決して広々としているわけではないが、手動でピント合わせも普通にできる。
上の両角と下側のファインダー内表示にケラレが見られる。このカメラも眼鏡着用時はアイカップを外した方が快適に使えるかもしれない。
今回のまとめ
見やすいファインダーの条件は視野率 100%で倍率はできるだけ大きく、ただし視野角35°以内と言うことになる。視野率100%は絶対の条件ではなく、写真を楽しむスタイル次第で95%でも全く問題ない場合もあるだろう。
視野率100%で視野角35°の場合の倍率は:
- 35mmフルサイズ: 0.73
- APS-C: 約1.1
である。
35mmフルサイズは現実の製品がほぼ上記の条件に合致するが、APS-Cの場合現状より倍率を上げて見えやすくする余地があると言えるだろう。ただしアイレリーフなど他に制限となる要素があるかもしれず、また製品戦略上フルサイズ機とは差別化が必要と考えるかもしれない。
以上は光学式ファインダーを念頭に置いたものだ。EVFの場合も「35mmフルサイズ換算」で考えた場合に「見やすいファインダーの条件」がそのまま当てはまる。
EVFの場合さらに解像度の問題がある。現在新品を入手できる高倍率ズームレンズを搭載したコンパクト機に20万ドット前後のEVFを搭載したものが多数あるが、これはお勧めできない。私見だが約92万ドットと表示しているものが最低ラインである。現在存在する製品に関する限りドット数が多いほど良いと言える。後はサイフと相談、だろうか。
これまた私見だが、コンパクトカメラで外付けEVFが使える製品であっても、よほど何かそれ以外に魅力的な事が無い限りその製品を選ぶべきではない。何であれ外付けアクセサリーを使う前提だと、コンパクトカメラはもはや「コンパクト」ではなくなると肝に銘じるべきだ。
さらに私見をもう一つ。今後カメラのファインダーはEVFが主流になる。光学式ファインダーが無くなるとは思わないが、趣味性の高いニッチな製品限定でしか残らないだろう。実用的な意味で高性能・高機能なカメラは全てEVFを搭載するようになる。光学ファインダー搭載機はその製品の性格と販売数からかなり高価になるが、性能・機能的にEVF搭載機の後塵を拝むことになるはずだ。現在の製品の水準差と技術の伸びしろの違いを考えると、光学ファインダーでよほど画期的な技術革新が起こらない限り、この結論にしかならないはずだ。
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